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潮騒(1964)

映画

私はサユリスト兼ミシマスト(造語)であるので、この映画は昔から何度も見ている・・・

というのはウソで、1年近く前に酔った勢いでAmazonでDVDを購入し、一度だけ”ながら見”しただけであった。

ちゃんと真面目に映画(DVD)を見て、レビューしてみる。

潮騒(新潮文庫連動DVD)

潮騒(新潮文庫連動DVD)

 

 

映像の鮮明さと制作スケジュールに驚く

まずこのDVDを見て驚くのは、その映像の鮮明さである。DVDパッケージのスチルはモノクロだが、作品自体はカラーである。

まだ”戦後どっぷり”の時代の、神島と、そこの人々の暮らしが鮮やかに、リアルに映し出されている。 

Wikipediaによると公開は1964年4月29日なので、撮影は前年の春頃だろうか・・・と思ったら、関川夏央著「昭和が明るかった頃」によると、なんとその公開月の4月6日から10日間、ロケを行ったという。

昭和が明るかった頃 (文春文庫)

昭和が明るかった頃 (文春文庫)

 

既に傾き始めていたとは言え、まだ映画が娯楽の王様であり、言わば”薄利多売”、もっと乱暴に言うと”粗製濫造”の時代なので珍しい話ではないのだろうが、ロケが終わって二週間後に公開されるという、今では考えられないスケジュールである。 

 

ギターの旋律にときめく

冒頭の神島の空撮シーンから、ガット・ギターの印象的なメロディが流れ、小説の冒頭の朗読が滔々と続く *1
その後、主人公のふたりが愛を育んでいくシーンを始めとした要所要所で、力強いギターの音色が響く。

この映画音楽は、50年後の今でも、少しも古くさくない。

 

かの有名なシーンで萎える

ストーリー自体は、小さな島で知り合った貧しい家の男と裕福な家の女が、女親に反対されつつも愛を育み、やがて成就するという、ありがちなプロットではある。

そしてクライマックスは、

 

「その火を飛び越して来い。その火を飛び越してきたら」

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数多のドラマやコントでオマージュ/パロディ化され続けている名シーンなのだが、カメラワークやカット割りに難があるため、いまひとつ盛り上がりに欠ける。

 

「松葉が痛(いと)うて」

というセリフで、二人は横になったのか?となんとか想像はできるのだが、その様子が映っていないため、何が起きているのかがよくわからない。

原作でのこのシーンは、

 

「その火を飛び越して来い。その火を飛び越してきたら」

少女は息せいてはいるが、清らかな弾んだ声で言った。裸の若者は躊躇しなかった。爪先に弾みをつけて、彼の炎に映えた体は、火のなかへまっしぐらに飛び込んだ。次の刹那にその体は少女のすぐ前にあった。彼の胸は乳房に軽く触れた。『この弾力だ。前に赤いセエタアの下に俺が想像したのはこの弾力だ』と若者は感動して思った。二人は抱き合った。少女が先に柔らかく倒れた。
「松葉が痛うて」
と少女が言った。
手をのばして白い肌着をとった若者はそれを少女の背に敷こうとしたが、少女は拒んだ。初江の両手はもはや若者を抱こうとはしなかった。

「潮騒」-三島由紀夫

三島先生ならではの繊細な描写で、若い男女の刹那の緊張感が豊かに表現されている。「柔らかく倒れた」「もはや若者を抱こうとはしなかった」などは、平易な言葉にも関わらずそのシーンや二人の心情を豊かにイメージさせる、稀代の天才作家の面目躍如である。

残念ながらこの映画では、その一片でも表現されてはいなかった。

「小百合さんサイドの制約」云々は広く語られていることではあるが、もう少し”撮りよう”があったのではないかと思う。

 

撮影当時の事情に納得する

上述の「昭和が明るかった頃」によると、この映画のロケ当時に日活に組合が結成されて、組合員は午後3時以降は就労が禁止されたそうだ。午後3時を過ぎると、スタッフの代わりに俳優達が撮影/照明助手を務めたという。

 

吉永小百合は神島ロケで、自分の出番以外はレフ板を持ち、俳優たちに照明を当てながら、内心に疑問がふくれあがるのをおさえられなかった。

「いくら闘争とはいえ、この何もない島へ来て、私たちが困る果てているというのに、スタッフのみんなは、知らん顔です」

-「昭和が明るかった頃」関川夏央 

小百合さんの美しさはこの映画でも変わらないが、「たった10日間のロケ」「スタッフが満足に働かない状況」「ロケ終了後に2週間で公開」では、いい作品などできるはずがない。

現代においてこの映画を観る意義は、

  • 神島の当時の庶民文化を鮮明な映像で知る
  • ギターの鮮烈なメロディを堪能する
  • 19歳当時の吉永小百合の美貌を再確認する

のみであると思う(※以上、あくまで個人の感想です)。

 

*1:ほぼ原作の文章をなぞっているのだが、原作の「歌島」をロケ地の実在の地名である「神島」に置き換えている。おそらく修学旅行のシーンに出てくるフラッグを始めとした小物を用意する手間さえ惜しいほどキツいスケジュールだったため、実在の地名に置き換えたのだと思われる