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東山千栄子さんと「東京物語」と親孝行と

映画

「日経ライフ-ウーマン-キャリア」に、木内昇さんのコラムが載った。

恥ずかしながら私はその存在を知らなかったのだが、東山千栄子さんという戦前から戦後にかけて活躍された大女優の、女優としてのキャリアを短くまとめた、いわゆる「珠玉のコラム」だ。

こういう文章が書きたいと思って睡眠時間を削りながら毎日ブログを書いているのだが、いっこうに書けるようにならない・・・ま、木内さんは天下の直木賞作家なので、おこがましいにも程があるってもんだが(笑)。

よくよく読んだら、これは先週土曜日の日経朝刊に載ったコラムであった。せっかくのコラムを読むのが一週間遅れてしまった。やっぱり新聞はスミからスミまで目を通さないとダメだね。

 

Huluで「東京物語(1953)」を見た

冒頭のコラムは、木内昇さんが「『東京物語』を観て号泣した」という逸話から始まる。

「東京物語はHuluで公開されてたなあ」 

というわけで、毎月約1,000円払っているのにめったに見ることがないHuluで、早速「東京物語」を見てみた。こうして思い立ったときに何の面倒もなくすぐ見られる(こともある*1)ので、あえて毎月1,000円をドブに捨てているのである。閑話休題。

「東京物語」はもう60年以上も語り継がれている名画で、私ごときが今さら新しく述べることは何もないのだが、取り急ぎ感想を書いてみる。

あらすじは、老夫婦(笠智衆・東山千栄子)が田舎(尾道)から子供達を頼って上京するが、子供達(山村聰、杉村春子)は自分の生活に忙しく、わざわざ遠方から尋ねてきた親をかまってあげられない。老夫婦は変わってしまった子供達を嘆くが、戦死した二男の未亡人(原節子)にはやさしくされて・・・という話。

 

子供いうものも、おりゃにゃおりゃんで寂しいし、おりゃおるでだんだん親を邪魔にしよる。

ふたつ、ええことはないもんじゃ。

- 「東京物語」 沼田三平(東野英治郎)のセリフより

この東野英治郎さんのセリフが、この映画のテーマを端的に表現している。

最初の30分は見るのをやめようと思うほど退屈だったが、老夫婦が東京見物をして、その後、子供たちに追いやられるように熱海に行く辺りからおもしろくなってきた。

まず、戦後たった8年なのに、東京・銀座周辺はすっかり復興されていることに驚く。現在ではめっきり寂しくなった熱海が、観光地として”全盛期”であることを思わせる描写も興味深い。やはりこういう昔の邦画は、現代とは違うこの国の風景を見るのが楽しい。

老夫婦が防波堤に並んで座りながら、光り輝く海を眺めているシーンも印象的だ。もちろんモノクロなのだが、白と黒の濃淡だけで描かれる海も、たまにはいいものである。

 

やはり役者陣がすばらしい

さすがに小津安二郎監督作品の世代ではないので、まともに見たのはたぶん初めてぐらいかと思うのだが、話者を正面から捉える細かいカット割りはちょっと新鮮だった。

東山千栄子さんを見たのは初めてだったが、なるほど「品性」を絵に描いたようなその表情は観る者を和ませる。できれば、もう少し痩せられていた方が良かったと思う(すみません)。

笠智衆さんは私がガキの頃(1970~80年代)は「リアルにお爺さん」だったが、この時まだ49歳(!)なのに、60代前半の東山さんの夫役、学年で1つしか違わない杉村春子さんの父親役を完璧に演じている。まったく違和感がないのは、スゴいとしか言いようがない。この人の独特な話し方は熊本訛りによるものだと初めて知った。Wikipedia情報だけど。

原節子さんはただただ美しい。その美しさだけで映画のワンシーンが成立する。早々に引退されてしまって、リアルタイムでそのお姿を見ることができなかったのが残念である。

杉村春子さんは稀代の大女優よろしく、「年老いた親に冷たくあたる長女」役でこの映画のテーマを支えている。この映画を観る誰もが、この長女を憎たらしく思うだろうが、私を含めてそのほとんどが、自身を省みれば自分の親にはやさしくできていないはずだ。

 

そしてやはり母を想う

今さらネタバレ云々を気にする映画でもないと思うので書いてしまうが、東山千栄子さん演じる老母がなくなり、三男(大坂志郎さん)が葬式でこうつぶやく。

 

どうも木魚の音いかんですわ。なんや知らん、お母さんがぽぉこぉぽぉこぉ、ちぃそぉなっていきよる。

僕、孝行せなんだでなあ・・・

今死なれたらかなわんわ、「さればとて墓に布団も着せられず」や・・・

- 「東京物語」 平山敬三(大坂志郎)のセリフ 

私も、母の告別式でまさに同じ思いだった。だから、たくさん集まっていただいたご近所の皆さんの前で挨拶しなければならないのに(二男なので何も話す必要はなかったが)、恥ずかしながら号泣してしまった。 

孝行のしたい時分に親はなし。
昭和の名画を見て、また改めて自身の愚かさを悔やむ。

さればとて 墓に布団は 着せられず・・・

 

*1:ま、見たいと思った作品は公開されていないことがほとんどだけど