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「砂の器 (1974)」を観た

映画

「はだしのゲン 涙の爆発」を観て

一昨日「はだしのゲン 涙の爆発」 を観たとき、ゲン役の春田和秀さんが「砂の器」の”あの”子役だと知って、どうしてもそっちも観たくなった。 

拙宅には、昔ダビングした「砂の器」のDVDがある。SMAPの中居さんが主役を務めた連続テレビドラマ「砂の器 (2004)」の放映当時、時代設定を現代に置き換えた、そのあまりのムリヤリっぷりに辟易して、「どうせなら『松本清張の映像化作品の最高傑作』として名高い映画版を観よう」と思って、近所のTSUTAYAから借りてきたものである。ただし、ソースはDVDではなくて、VHS(笑)。PCに一度取り込んでから、DVDに焼いた。2004年当時、この映画のDVDはまだ発売されていなかったのか、たまたま近所のTSUTAYAになかっただけなのかは記憶が定かでない。

何百回何千回と再生されたであろう、そのビデオテープの画質は、当然のごとくボロボロであった。

 

役者それぞれの圧倒的な存在感と子役の難しさ

事件を追う刑事役の丹波哲郎さん、物語の大事なカギを握る役の緒形拳さん、冷徹な犯人をクールに演じる加藤剛さん、ハンセン病患者を鬼気迫る表情で演じる加藤嘉さん・・・それぞれが、圧倒的な存在感で暗く哀しい物語を紡いでいく。森田健作・現千葉県知事の、若さ溢れる芝居もすがすがしい。

その中で、春田和秀さんは、幼い子供とは思えない”目力”でスクリーン*1の向こう側を睨む。その目は、差別と偏見に満ちた大人たちと、その社会を射抜いている。f:id:ToshUeno:20150827222115j:plain

一昨日も書いたが、春田さんは子役としてだけで”役者人生”を終えられたようで、Wikipediaにその名前はクレジットさえされていない。

子供ながらにこれだけの表現力があっても役者としては大成できないところに、芝居や「役者として成長する」ことの難しさがあるのだろう。

 

女優陣のキャストを考える

男優陣も子役もすばらしかったが、メインキャストの女優には違和感が残った。

加藤剛演じる天才ピアニストに弄ばれ、その挙げ句に走っただけでなぜか流産して死んでしまう不幸な愛人役が島田陽子さんなのだが、私にとって彼女は「不幸な女」というイメージではない。当時はまだ若手人気女優のひとりに過ぎなかったのだろうが、そう考えてもやはり「男に弄ばれる」ってビジュアルじゃない。

Wikipedia「日本の女優一覧_1950年代以前生まれ」の中から「①この映画の撮影当時(1973-1974)に既にデビューしており」「②かつ20~30代であった」という条件で私が選ぶとすれば、

  1. 太地喜和子
  2. 中村晃子
  3. 児島美ゆき(敬称略)

このあたりだろうか。やっぱ太地喜和子さんだろうな、筆頭は。だいぶ”ベタ”だけど。

天才ピアニストの婚約者で大物政治家の令嬢の役・山口果林さんも、失礼ながら「お金持ちのお嬢さん」ってイメージじゃない。この役にピッタリな女優はもういくらでもいるが、上記一覧から1人だけ私が選ぶとすれば・・・大原麗子さんかなあ・・・ちょっとキレイすぎるかしら。

まあ単純に、島田陽子さんと山口果林さんをテレコにすればいいと思うが、世の女性たちの嫉妬心をうまく”利用”するために、あえてキレイな方を不幸な役にしたのだろう*2
 

邦画史上最高のロードムービー

丹波哲郎さん演じる今西刑事と、森田健作さんによる吉村刑事が秋田に出張捜査に赴くところからこの映画は始まる。

刑事の出張とは言え、その後、出雲、伊勢、大阪、金沢とあちこち飛び回るさまは、さながらロードムービーのようだ。

そして、この映画を「至高のロードムービー」たらしめているのは、本浦千代吉(加藤嘉)・秀夫(春田和秀)親子によるハンセン病の差別から逃れるための旅(※回想シーン)である。

その旅は、日本の四季と原風景を捉えながら延々とつづく。バックには、主題曲「ピアノと管弦楽のための組曲『宿命』*3」が流れ続ける。セリフは一言もない。親子の怒りと悲しみに満ちた表情と、弱々しい佇まいだけで、その心情はじゅうぶん伝わってくる。

美しい日本の風景と、ハンセン病という病(やまい)への差別を同時に描いたこのクライマックスシーンが、この映画の最大の見所である。

脚本を担当した橋本忍さんが、その親子の旅について秀逸なコラムを書かれている。

 

・・・親子の旅では条件狙いの、青森の竜飛岬、長野県のあんずの里など、今でも心の底に残り消えない華麗な絵の連なりです。

言い換えれば、『砂の器』は、太平洋上の細長い弧状列島、日本という国の原色図鑑ではなかったのではないでしょうか。

生誕100年松本清張「砂の器」を旅する:PRESIDENT Online - プレジデント

やはりこういう美しい風景は、ボロボロのVHSではなくて、キレイなDVDで観たい。

<あの頃映画> 砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

<あの頃映画> 砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

 

 

*1:厳密に言うと液晶ディスプレイだけど

*2:考えすぎです

*3:http://cinema.ne.jp/event/event201410103/