関川夏央氏の昭和に関する著作について(1)
今週のお題「人生に影響を与えた1冊」
関川夏央著「昭和三十年代演習」
「人生に影響を与えた」というと何か大げさだし、そもそもまったくたいした人生ではないので恥ずかしいのだが、ちょうど2年前の2013年9月に買った関川夏央氏の「昭和三十年代演習」は、随分久しぶりに買った、仕事関連以外の、ハードカバーの書籍だった。
私はガキの頃から「戦中・戦後史」には興味があって、それを扱ったテレビ番組や写真系のムックなどはよく見ていたのだが、
もともと読書は好きな方ではないので、知識が豊富というわけではない・・・ということに、改めて気づかされた。この本に書かれたことのほとんどが、初めて知ることばかりだったので。
大衆文化から時代を紐とく
そんなふうに書くと、政治経済について書かれた本なのかと思われるかも知れないがそうではなくて、小説や音楽や映画などの「大衆文化」を通して、昭和30年代という時代の世相を”つまびらか”にしようとした本であり、ゆえに非常に読みやすく、また、さまざまなジャンルからエピソードを採り上げているので、飽きない。
例えば、三島由紀夫と松本清張という、昭和を代表するふたりの作家の関係性について書かれたエピソードなどは、非常に興味深い。
三島由紀夫が、近代文学と現代文学を網羅した浩瀚*1な全集「日本の文学」の編集委員を、中央公論社の嶋中鵬二社長に依頼されたのは昭和三十八年五月二十九日でした。〔中略〕
紛糾したのは昭和三十八年七月十七日の第三回目の会合です。この日、三島由紀夫は「日本の文学」に松本清張作品を入れることに強硬に反対しました。のみならず、松本清張を入れるなら自分は編集委員を降りる、「日本の文学」に自分の作品を収録することも固持する、とまでいいつのったのでした。
- 関川夏央著「昭和三十年代演習」第二講 ・「謀略」の時代
「三島由紀夫先生がなぜそこまで松本清張作品を嫌っていたのか」については、ぜひ本書をお読みください。
勉強会の記述には違和感がある
本書はタイトルに「演習」とあるとおり、関川夏央氏が岩波書店の編集者を集めて、その前で話した内容を元に起こしたものである。
よって、ときどきやや唐突に、その勉強会(?)の内容が挟まれる。
編集者の発言はフォントを丸ゴシックに変えてあって視覚的にわかるようにはなっているのだが、私には違和感があった。
たとえば章の最初にだけ入れるとか、そういう構成の方が良かったのではないかと思う。
「内田樹の研究室」と「ALWAYS 三丁目の夕日」
この本を知ったのは、当時読んでいた内田樹氏のブログ「内田樹の研究室」の記事であった。
こんな知性の塊のような方の書評には、足元どころか、その5km後方にも及ばないが、その書評に乗っかる形で書くと、内田樹氏も
私たちはつねに無意識のうちに記憶の事後操作を行っている。
関川さんはそのように操作される前の、無垢の過去、過去のリアリティに触れようとする。
と書いているとおり、本書の冒頭では「ALWAYS 三丁目の夕日」の”ウソ”を暴いている。
この映画は私も大好きで、DVDに焼いて何度も観ているが、「確かに、言われてみればそうだわ!」と、初めて気づかされた。
地方出身者なら誰でもわかるであろうその”ウソ”に、美化された記憶の中に紛れて、われわれ一般大衆は気づかないのである。あるいは、関川夏央氏が本書で書いているように、気づかない”フリ”をするのである。
読書のおもしろさを久しぶりに知った
この本を読んで、随分久しぶりに読書を「おもしろいものだ」と思った。
上述のとおり、自分では「知っている」と思い込んでいた戦後史にも、まだまだ知らないことがたくさんあった。そう改めて思い知らされたことは、久しく味わったことのない、新鮮な体験だった。
今思えば、その後Kindle Paperwhiteを買って”努めて”本を読むようになったのも、年代相応の知識が全くない自分の体たらくに嫌気が差して新聞を読むようになったのも、この本がきっかけだったのかもしれない。
そういう意味では、「人生に影響を与えた」と言えるだろうか。
なお、関川夏央氏著作の「昭和関連モノ」については、もう一冊ある。
(つづく)
*1:こう‐かん 1 書物の多くあるさま。 2 書物の巻数やページ数の多いさま。