イチキュッパーの高級雑誌を楽しむ
ダイナースクラブカード
「ダイナースは、なかなか作れねえよ」
まだ全然若い頃、会社の上司が同僚と話しているのを小耳に挟んだことがある。
「ダイナースクラブカード」は、Wikipediaの当該項目のページにも
日本に居住する外国人や日本人の富裕層を主なカード会員(客層)にして事業を行っていた為、入会のハードルが多少低くなった現在でも、一般的なゴールドカード以上の上級カードとして認識されている。
と書いてあるとおり、「審査が通りにくいカード」というのが一般の認識のようだ。
細かい経緯は忘れてしまったが、10年以上前、ダイナースクラブからなぜか私ごときに「カード作りませんか」という「お誘い」があったので、冒頭の上司の言葉を思い出した私は、恥ずかしながら少し有頂天になって、そのお誘いを受けてしまった。貧乏サラリーマンのくせに。
結果的に、私ごときでもフツーに作れたので、少なくとも「敷居が高い」ということはないはずだ。
年会費24,000円弱
ノーマルなカードの年会費は、正確には23,760円(税込)。12で割ると、ちょうど(と言っていいのか?)1,980円。ま、びっくりするほど高くはないが、アメックスのゴールドを除く他のゴールドカードと比べれば、倍以上はする。
たとえ年会費が24,000円弱だとしても、活用できていればそれなりの価値はあると思うが、私の場合はまったく使っていないので、年会費をドブに捨てているようなものである。
だったら解約すればいいのだが、冒頭の上司の言葉がアタマにこびり付いていて、「このカードを持っていること=ステータス(笑)」という意識に縛られ、なかなか踏み切れない。
金も地位も名誉も自信も矜恃も無い者は、何かにすがりたがる。
悲しい話である。
ちなみに、「ダイナースクラブ プレミアムカード」は、年会費130,000円(税抜)だそうだ。世界は広い。
機関誌「SIGNATURE」
持っていても活用する機会の無いダイナースクラブカードだが、唯一の「特典」として、「SIGNATURE (シグネチャー)」という機関誌が毎月送られてくる。
2015年12月号は、「ウンブリア州」の特集であった。
ウンブリア州?知らねえなあ・・・
記事によれば、ウンブリア州とは、イタリアで唯一の「内陸 (=海にも国境にも接していない)州」で、緑豊かなところから「イタリアの緑の心臓」と呼ばれているそうだ。
このように、毎月の特集では「海外の隠れた観光地」が紹介されることが多い。
記事そのものは、とても読み応えがあるが、海外に行く金も時間も無い私は「へえ~世界は広いねえ~」と思うだけである。
でも海外旅行に頻繁に行くようなリッチ・ピープルは、こういう記事を参考にして実際のその土地を巡るのだろう。うらやましい。
あとは毎号、高級品あるいは“超”高級品の数々を紹介する記事で埋め尽くされる。2,000万円の宝石、数百万円の腕時計、30数万円のダウンジャケット、20万円代のスーツ・・・私にはまったく縁の無い世界が、そこに広がっている。
でも雑誌の最後の方には、わりとリーズナブルな通販特集があって、なぜだかホッとする。
12月号には「動けるあったか寝袋 (人型ラクラク寝袋):9,980円」が掲載されていたが、
そんなものを金持ちが着るとは思えない。
というわけで、カード自体はまったく利用していないが、この機関誌が「1,980円」だと思えば、「元が取れる」と思えなくも・・・いや、やっぱりそこまでの価値は感じないが、それなりに楽しめる内容ではある。
ちなみに、裏表紙には「定価381円」と記されている。どこかで販売しているのだろうか。
伊集院静氏のコラム
ほとんど私には縁の無い記事の中で、 唯一、毎号楽しみにしている連載がある。
伊集院静氏のコラム「旅先でこころに残った言葉」だ。
2015年12月号は、神戸・博多・丸亀・京都・銀座のバーの話であった。
静かでしっとりとしながらも情景を豊かに想起させる文章は、いつ読んでも感心させられる。
バーテンダーが好きである。
理由はない。好きに理由などあるものではない。敢えて言うなら、まだ青二才の頃、逆上したり、口惜しかったり、己一人だけがどうしてこんな目に遭うんだと思って何もかもやめてしまいたくなった時、彼等は黙って、私のグラスに酒を注いでくれた。
亡くなった友とは二度と逢うことはないが、悲しみはそれ以上でも以下でもない。ただ私の口の奥に残った、彼が作ってくれたドライマティーニの苦味を、私は死ぬまで忘れないだろう。
バーテンダーがこしらえる酒とは、そういうものだ。
- 旅先でこころに残った言葉 第八十八回 伊集院静
なるほど、こういう文章が書けるようになれば、「SIGNATURE」の“絵空事”のような記事を、有効活用できるような身分になれるのか・・・