秋田なまはげツーリング2016:2日目 (中篇)
「秋田なまはげツーリング」というキャッチーなタイトルにもかかわらず、2日目・中篇にして、ようやく「なまはげ」について書くことができる。それほど、「なまはげの棲処=男鹿半島」への道のりは遠かった。
男鹿半島は小さい
「男鹿半島を中心とした、秋田県の海沿いの道を気持ち良く流す」それが今回のテーマなので、2泊3日の「メイン日程」である2日目は、のんびり走りつつも、男鹿半島にはできるだけ早くたどり着きたかった。相反する感情を抱きながら、走っていた。
日本海側を北上、つまり「時計回り」に走っているので、海沿いを通るには「左へ左へ、とにかく左側に道があったらそちらへ」行けば良い。だが左側に逸れたその道が、ずっと先まで繋がっているとは限らない。
ナビで経路を細かく設定すればスムーズに走れるのだろうが、それじゃおもしろくも何ともない。地図を頭に叩き込めば迷うこともないのかもしれないが、悲しいかな、そんな記憶ができるほどハイスペックな脳ミソでもない。結果、左側に逸れた先が行き止まりだと、その分岐点まで同じ道を戻ることになる。今回のツーリングでは、4、5回ほど戻っただろうか。
やたらとデカいトラックばかりが通る、秋田市内の工業地帯っぽい所を走っていて、工場のゲートで行き止まりになった。警備員が両手をクロスして「×」を示している。うん、見りゃわかる。自分が場違いなことが。「オヨビでない」ことが。こんな所に入ってきてすみません。
Uターンして改めて時計を見ると、午前9時40分を過ぎていた。既に3時間ほど走って、現在どの辺りなのかを、ナビの地図を [広域] にして確認してみた。
(うぅわっ、男鹿半島、まだ全然遠いじゃん)
頭の中のイメージでは、男鹿半島のすぐそばまで来ていると思っていたが、まだ全然手前だった。そして漠然とした計画では、陽が傾く頃までに半島の「向こう側」に行くつもりだった。ヤバい。先を急ごう。
・・・その後、男鹿半島の先っちょ=入道埼を過ぎて、ようやく気づいた。男鹿半島が、ずいぶん小さいことを。改めて地図で確認すると、伊豆半島より全然小さい。地図上で男鹿半島の大きさを伊豆半島と比較すると、三分の一にも満たない。
まだ川崎に住んでいた頃、昼過ぎに拙宅を出ても、18時までには伊豆半島の海沿いをぐるっと一周できた。川崎から熱海海岸自動車道の入口まで、約1時間半~2時間。14時に熱海に着いたとして、伊豆半島の大きさでも、約4時間で一周できた計算だ。
なんだ。全然余裕じゃん。誰だよ「東北2大半島」なんて言ったのは。
相変わらず、細かいルートはおろか、おおざっぱに地図さえも確認しないまま、ツーリングに出た私である。少しはまともに、地図を見てから出かけよう。そう痛感する出来事が、この後も続くことになる。
なまはげづくし
「なまはげ」とはいったい何だ
「なまはげ」について、このツーリングの前フリ篇で「エキセントリック・カルチャー」と表現した。「なまはげ=文化」と捉えても決して間違いではないだろうし、何よりも単に「カルチャー」って言葉の“響き”が好きだからだ。
英語版Wikipediaの「Namahage」の項には、「in traditional Japanese folklore」とあった。なるほど、「フォークロア」か。それでは、より正確に「エキセントリック・フォークロア」と訂正しよう。語感はいまいちだけど。
また、とあるサイトに
なまはげとは、秋田が誇る雪国の民俗行事である。行事は男鹿半島において、12月31日の夜か1月15日の夜に行われている。
- 男鹿のなまはげ
とあった。
会津という日本有数の豪雪地帯で生まれ育ち、ガキの頃はイヤと言うほど雪で苦労させられ、会津に生まれたことを後悔した私にとって、「雪国」という言葉は心の琴線に触れるものがある。その琴線に導かれて、ひとつだけ理解した。
海沿いということで降雪量自体は会津に比べて少ないとは思うが、三方を日本海に囲まれ、その荒海から吹き込む寒風は凄まじいであろうことは容易に想像できる。そんな厳しい冬があってこその、その中で生きる人々の暮らしを通してこその「なまはげ」であるのだろう。
現代におけるそれは、れっきとした「神事」なのか、あるいは単なる「エンターテインメント」なのか、この土地で暮らさなければ理解できないとは思うが、少なくとも、9月の照りつける太陽の下で「オブジェ」として鑑賞するものではないはずだ。その土地においてもっとも特徴のあるものを観光資源化するのは仕方のないことだとは思うが、等身大ならともかく、「巨大化したオブジェ」はちょっとやり過ぎじゃないのか。
・・・まあでも、ブログのネタとしては大アリなので、主義主張は棚に上げて、写真に収めてきた「なまはげオブジェ」をざっと掲載してみる。
男鹿総合観光案内所
全国的にも有名な、超々巨大像。ぜひ一度見てみたかったが、例によって予めその場所を確認もしておらず、(見つかんなかったら、どこにあるか調べなきゃな)なんて思ってたが、調べる必要などまったくなかった。
クルマ/オートバイでフツーに男鹿半島に来れば、イヤでも目に入る。圧倒的な巨大さであった。
私が近くで写真を撮ったときは周りに誰もいなくて、(なんだ意外に人気ねえんだな)なんて思ってたら、その直後にワラワラと人が集まりだした。
(▼人間との大きさの違いに注目)
(ふふ、オレにしては珍しく“間”が良かったな)と喜んでいたのもツカの間、この▲写真を撮った直後に買ったばかりのスマホ (Samsung Galaxy S7 edge) を落として、大枚5,000円以上もするガラス製のカバー (※保護シートではない) をバキバキに割ってしまった。
ほんと、オレのバカ。
男鹿駅
JR男鹿駅の入口ヨコには、等身大 (身長はかなり低め) の銅像が設置されていた。これぐらいの大きさなら、まあ理解できる。
男鹿市役所
男鹿市役所にも、地味ながら1体、白亜の像が設置されていた。
「やっぱ “ス役所” にド派手な像は置げねえべさ」という、お役所的判断に基づくと思われる。
とあるバス待合所
ここは現地にも場所を示す看板がなく、Google マップ上も名前が明記されていないので何と呼べばいいかわからないが、私が見た中では、この像がいちばん強烈だった。
像のおおよその位置を地図上に示す。トイレと、バス待合所があって・・・
いくつか露店 (「サザエの壺焼き」なんかを売ってた) が並んでいた。
いちばん手前の店にいたおっさんが、私が滞在した10分弱ほど、息つく間もなく同僚のおばちゃんと話し続けている声が印象的だった。
「東北の人はシャイで無口」なんてイメージがあって、私はそのイメージどおりの人間だが、そうでない人ももちろん多い。特に青森・秋田の男には、おしゃべりな人が多いように思う (※オレ統計)。
入道崎
後述する入道崎には、カクカクと不自然に動く3体の等身大像があった。「なぐごはいねがあ~」と、低音質のサウンドを辺りに響かせていた。
「絶対に手を触れないでください」的な注意書きがあって、(何もそこまで拒絶しなくても・・・)と思ったが、世の中には想像もできないバカがいるから、もしかするとブッ壊された過去でもあるのかもしれない。
「ザ・観光地」である入道崎には、これでもかってほどの「なまはげグッズ」が売られていた。オートバイだと荷物になるので買う気はさらさらなかったが、クルマで来ていたら・・・
いや、やっぱり買わないかな。ノリで買っても、こんなTシャツ絶対着ないしね。
男鹿温泉郷
「男鹿温泉郷」は、大きめのホテルが3軒ほどある、れっきとした温泉街である・・・が、9月3日(土)当日は、私と、「自転車で日本一周してます」といった風情の若者と、デカいスーツケースを引き摺るように歩いていたおばちゃんの3人しか、観光客と思しき人間はいなかった。
そんな男鹿温泉郷には秋田県道55号を海側から来たので、(ここにはオブジェはねえんだな)と思っていたら、私が来た方とは反対側の入口に、ややクオリティ低めの像が設置されていた。
こうして並べて見てみると、顔もカッコもポーズも手に持ってるモノも、いろいろなんですねえ・・・。
なまはげシャトル
オブジェではないが、これを見たときに(ほんと、何でもかんでも「なまはげ」だなあ)と思ったので採り上げる。上で書いた「とあるバス待合所」にあった小さな看板。
最初は、地元のクルマの運転ができない人のための交通インフラだと思ったので、そんなものにまで「なまはげ」って付ける必要ねえじゃん、と思ったのだが、よくよく読んでみると
男鹿の主要観光スポットをつなぐリーズナブルな定時制あいのりタクシー
とあるので、観光客が主要顧客なのだろう。
どんなものか見てみたくて待っていたら、すぐに1台の使い古されたバスがやって来た。
(なんだ、ごくフツーのバスじゃん)と一瞬思ったが、これはただの路線バスだった(笑)。
年老いた運ちゃんはひとしきりアイドリングを続けて、古いディーゼルエンジン特有の悪臭と有害物質を散々周囲に撒き散らした後、エンジンを止めた。そして、最後部の座席に座って休憩し始めた。あのアイドリングは何だったんだろう。ああしないと、エンジンの調子でも悪くなるのだろうか。どこか都市部のバス会社からの“お下がり”であろう、こんなオンボロバスを使わざるを得ない田舎のバス会社も大変だ・・・。
そんなことを思いながら「なまはげシャトル」の登場を待ったが、結局その姿を見ることはできなかった。
(番外) カラオケJAPAN
「この章のテーマ=なまはげづくし」とはこれっぽっちも関係ないが、この写真だけはどうしても載せたかった。
男鹿温泉郷で見かけた「カラオケJAPAN」。
ねえ、最近満足するまでウタッテル ジャパン
温泉街らしい“場末感”たっぷりの店舗デザインと、フィリピーナのブロークン・ジャパニーズを字ヅラで表現した店頭コピーに、目が釘付けになってしまった。
私はもう酒をヤメてしまったので、もしこの温泉街に泊まっても、この店で「満足するまでウタッテル ジャパン」とは言えないであろうことが甚だ残念だ (シラフで人前で歌えるほど厚顔無恥ではない) 。
ストレスを抱えながら「堅実な健康」を取るか、健康を害しながら「刹那の享楽」を取るか。人生とは、常に悩ましいものである。
男鹿半島の先っちょ=入道崎
「ライダーとは、常に先っちょを目指す存在である」その法則に則り、男鹿半島の先っちょ=入道崎にやって来た。
駐車場が混んでいる場合、おクルマのみなさんに気を遣って敷地の隅の方に駐めるのだが、ガラガラだったので、堂々と駐車場の枠内に駐めた (いちばん端っこに) 。
入道崎は、巨大な「入道崎会館」を中心とした完全なる「観光地」であったが、土曜日のお昼時にしては人が少なかった。
黒と白のシマシマが印象的な入道埼灯台をバックに、「入道崎」モニュメントを撮る。灯台の方は「さき」の字が違うそうだ。めんどくさ。
なにやら神秘的なカタチをした、「北緯40°のモニュメント」ってのもあった。
(北緯40°だからってなんなんだよ)と思ったが、緯度線のキリがいい場所に半島の先っちょが位置しているのが、“ロマン”なのだろう。
現地ではまったく気づかなかったので写真も撮っていないが、この配置図▼をよく見ると、北緯40°ラインはココではなく別の場所を通っているようだ。
どうせなら、北緯40°のライン上にこれを作ればいいのに・・・と思うのだが、そこをわざと外すところが、“ロマン”なのだろう。
そんなロマン溢れる「北緯40°のモニュメント」なのに、「北斗の石」と呼ばれる巨大な石の塔は、その巨大さゆえにできるイイ感じの日陰によって、すっかりジイさんバアさんの休憩所と化していた。
反対側からも写真を撮りたかったのだが・・・ロマンもヘッタクレもありゃしない。
(つづく)