波勝崎で猿を見て人間の愚かさを嘆く:前篇
(前回記事から時系列を遡るが)2017年2月18日土曜日、また飽きもせず愛車・ブルバードM109Rで伊豆半島沿岸部を一周してきた。今回はいつものようにただ走り続けただけでなく、一大観光地「波勝崎」で野性の猿を観察してきた。
波勝崎で波と猿に戯れる:前篇
波勝崎/波勝崎苑とは
「波勝崎」は、静岡県賀茂郡南伊豆町にある小さな岬である。
南伊豆・西伊豆の沿岸部はテクニカルなグネグネ道が続くが、その中でも群を抜いて高い曲率と高低差を誇る、相当なスキルを要する専用道路を通ってたどり着いた先に「波勝崎苑」はある。
「波勝崎苑」は、野性の猿たちが身を寄せ合って暮らす海辺の楽園である。
そこに割って入って餌付けに“成功”した地元の人間たちが、その楽園をまんまと商売に利用している。2017年2月現在の入苑料は700円。
はっきり言って、ボッタクリである。せいぜい300円ぐらいが適正価格だろう。
駐車場から猿たちが暮らす海辺までは、マイクロバス *1 で送り迎えしてくれる。歩いてもたいした距離ではないが、「サービス」と呼べるのはただこれだけであり、せっかく“大金”を払っているのだから利用しないテはない。
ちなみにこの写真▲は帰りに撮ったもの。この位置がほぼスタート地点で、坂を上りきったところに駐車場がある。
行きは上の写真とは逆に海辺に向かって下っていくわけだが、写真を撮り損ねた。
ろくに道路を整備していないせいかバスが激しく揺れてサイフをシートの下に落としてしまい、私にしては珍しく大金が入っていたので心底アセって、写真どころではなかったのだ。
売店の汚さに萎える
マイクロバスを降りると、まず売店に入るように促される。奥の薄汚れた建物が売店である。窓に「食事」と書いてあるが、既に(見た感じかなり以前から)食堂は営業していない。
売店の中は、古く汚い。ミヤゲ物も売っているが、店の雰囲気が「何かを買おう」という気分を削いでしまう。
▲写真手前のおっさんは、バスから降りてきた客を案内したり、帰る客のためにインターホンでバスを呼んだりとよく働いていたが、奥に写っている赤いジャンパーを着たおっさんは、ずっと釣りか何かの雑誌を読んでいて微動だにしなかった。そんなにヒマなら、物置と化して見た目も汚らしい食堂部分の整理整頓でもすればいいのに。
太古の昔に書かれた、芸能人のサインも飾られていた。変色した紙が、長い時間の経過を思わせる。
▲向かって左から「金子あや (誰?)」「雨宮塔子 (TBS社員時代!)」「TOKIOの3人 (城島リーダーとRSじゃなくて国分タイチと、もう1つは解読不能)」。
「昭57年12月」と記されたパネルが2枚飾られていて、そこには猿に囲まれた妙齢の女性が写っていた▼。
が、名前がどこにも書かれていない。さすがの私も、誰だかわからない。
1982年頃に活躍していた女優さんだろうか、それとも歌手だろうか。このすぐ後ろに赤いジャンパーのおっさんが座っていたのだが、あまりに雑誌に夢中のご様子なので、「一体これは誰なのか?」と声をかけるのも憚られた。
猿を撮るのは難しい
売店のあまりの汚さにすぐに耐えられなくなったので、とっとと外に出て猿と戯れることにする。
売店の中にいると、鉄格子越しに客があげる餌を奪い合って奇声をあげたり、ドアに突進したりする猿もいるので、(おいおい大丈夫かよ)と心配になる。
そこですかさず、よく働いている方のおっさんが「触ったりしなければ大丈夫ですから」とやさしくアドバイスをくれたので、全面的に信用して群れの中に入って写真を撮る。
が、この日はなんと、大枚はたいて買った高級コンデジ「Panasonic DMC-LX9」を忘れてしまったのだ。しかも真鶴半島を過ぎて熱海に入る辺りまで、忘れたことさえ気づかなかった。ヤバい。肉体だけでなく、脳ミソも劣化が著しいようだ。
しかたなく、光学ズーム機能のないスマホを近づけて撮影に挑むが、どの猿もシャイなのか、なかなかこっちを向いてくれない。
(もう、親子揃ってシャイなんだから・・・)
この小猿▼は、私の身長より高いエアコンの室外機?の上にちょこんと座って、一心不乱に何かを頬ばっていた。スマホを近づけてもワレ関せず状態だったので、なんとかいい感じに撮影できた。
ちょっとだけ、この人▼を思い出した。
奇跡のスリーショット▼。彼 (彼女) 等の視線の先には、大海原が広がっている。
(「見ザル・聞かザル・言わザル」やってくんねえかなあ)と思ったが、そこは野生の猿、そういったエンターテインメント根性は持ち合わせていないようだった。
さまよいの果て波は寄せる
売店の周囲は舗装されていて歩き回るには都合がいいが、この日は寒くて風が強かったせいか、猿たちはあまりそこにいなかった。
海の方を見ると、いかにも歩きにくそうな、丸くて大きな石が敷き詰められた岩場の向こう側に小さな砂浜(ただし小石とゴミだらけ)があって、そこで何匹か猿が遊んでいる。「海+猿」という組み合わせなんて、なかなか見られないじゃないか。よし、ちょっと行ってみよう・・・
・・・と思ったが、そこには夫婦と思しき中年カップルが既にいて、嫁さんの方はこれ見よがしに一眼レフを構えている(ひがみ過ぎ)。高級コンデジならまだしも、スマホしかないのに一緒になって写真を撮るのもちょっとコッパズかしい(考え過ぎ)。
しかたなく、猿がまったくいない岩場の方に行って、荒れ狂う海を眺めることにする。
脳内BGMは、松任谷由実「さまよいの果て波は寄せる」。
言葉にない愛の透き通る手紙を 海はよせてくれる波にのせて
ああ 失うものはもうなんにもなくて 心静かな私がはじめて見える
「海を見ていた午後」「潮風にちぎれて」、そしてこの「さまよいの果て波は寄せる」・・・海を題材にした、ユーミンの一連の曲が私は好きである。
前者2曲が写実的な描写で「恋愛の終わり」を歌った曲であるのに対して、この曲は観念的で難解な表現が並ぶ(「言葉にない愛の透き通る手紙」って??)。稀代の名盤「悲しいほどお天気」の中でもとりわけ地味な曲だが、波打ち際に立つと決まって脳内に流れてくる、隠れた名曲だ。
そんなんしてたら、この写真▼を撮った直後にいきなり大きな波が来て、危うくずぶ濡れになるところだった。
そればかりか、驚いてスマホを落としそうになっただけでなく、転びそうにさえなってしまった。クソ寒い中オートバイで来ているゆえ、もし転んで海に落ちでもしたら、まともに帰ることもできない。ヘタしたらドザエもんである。アブねえアブねえ。
もうじき50歳、浮かれ気分の冒険家気取りも、大概にしないといけない。
(つづく)
*1:これがまたシート間が狭い!身長176cmの私でもまともに脚が入らなかった