四国・九州ツーリング2017~3日目後篇:岬とフェリー

2017年・ゴールデンウィークの6日間のツーリングは、3日目の後半から4日目にかけてが最大のハイライトであった。

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もちろん観光スポットに行ったワケではなく、ネタになるような出来事があったわけでもない。「私がツーリングに求めるものが、そこにあった」、そういう意味でのハイライトなのだ。



 

果てしなく続く海沿いの道

愛媛県伊予市から始まる国道378号は、海沿いを延々と走る、まさに「快走路」であった。
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この日(4月30日)は後述する「時間厳守」の予定があって「海沿いのグネグネ道」にこだわることはできなかったので、「いちばん速い道=海沿いの国道」というシチュエーションは、常に海を見ながら走りたい私にとって非常にありがたかった。

ネットの情報によれば、地元民には人気の道路であると言う。グネグネを求めない一般のドライバー(クルマの場合は私も同類に属する)にとっては、安心して通ることのできる(いきなり狭隘になったりしない)海沿いの国道は、貴重なドライブコースであろう。

 

息を呑むような風景との出会い

国道378号の海沿い区間が終わり、内陸部に入ってから国道197号を右折する。そのまま進めば目的地に最速で到達できるのだが、やっぱり少しはグネグネ道が通りたい。愛媛県道255号に逸れると、愛媛県西宇和郡伊方町の「亀浦」という地域で絶景が待っていた。
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例によって例のごとし、写真だと画角は狭いし無粋な電線が写り込んだりして「絶景度」がまったく伝わらないだろうが、現場では「おお・・・いいねえ・・・」と独りごちていたのである。こういう名も無い道の名も無い場所における、息を呑むような風景との不意の出会いが、私にとってのツーリングなのだ。

だからこの4代目ホンダ・プレリュードのドライバーさんにも、ガードレールさえない、こんな絶好の「撮影ポイント」に路駐しないでいただきたいのだ。f:id:ToshUeno:20170430163232j:plain

 

原発マニア、伊方原発を知る

目的地も設定せずにただひたすら海沿いを走っていると、不意に原子力発電所に出会うことがある。一昨年の島根原発、今年4月の柏崎刈羽原発などである。

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昨年4月にアクセスを試みた福島第二原発は、不意ではないし手前の検問で止められたので、ま、などなんて書きつつ、その2箇所だけなんだけど。

そしてこの日は、上述の絶景ポイントから少し進んだ先で、眼前に異様な建造物が現れた。この日の時点でわずか3箇所しかなかった稼動中の原発のうちのひとつ *1、「四国電力・伊方原発」である。
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原発を取り囲むフェンスには決まって「撮影禁止」と掲げられているので、
(ここから写真撮るのも、やっぱ禁止されてんのかな)
なんて思いつつ、コンデジのズームを駆使しながら数枚の写真を撮る。

(あーーションベンしたい)
迫りくる体内廃液の発露を抑えながらさらに先に進むと、いかにもトイレがありそうな建物が目に入る。見たところ、通りすがりのヨソ者もウエルカムな施設のようだ。
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(お、これはトイレあるんじゃねえの?)
と期待して中に入ると、きれいな制服を身にまとい、チリバツ(死語)メイクを施した妙齢の女性に「いらっしゃいませ」と声をかけられた。

ここは、「伊方ビジターズハウス」という名称の、名が体をまったく表していない「原発バーチャル体験(笑)施設」なのだった。
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まずは何よりも先にトイレに直行して用を済ませ、「展望台」という掲示に釣られてエレベーターを上がる。ここから見える景色もなかなかの絶景だったが、原発がチラッとしか見えない位置に施設と展望台を設置したのは、やはり「あえて」の措置なのだろうか。
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写真を見ていて(どっかで見たことがある景色だなあ)と思ったら、構図が「白米千枚田」と同じだった。
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(▲2012年10月1日撮影:時季的にいまいち田圃っぽくないけど)
・・・ま、「構図」だけね、同じなのは。

(おお、なんかよくわかんねえけどキレイだな)
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なんて思いながら館内の展示物を見て回る。こういったキレイなオブジェで来訪者の目を眩ませ、原発への嫌悪感・抵抗感を薄めるのがこの施設の狙いなのだろう。

館内の奥の方に「ボタンを押すと何かが動く *2」みたいな仕掛けがあったのでウキウキしながら押したのだが、ウンともスンともいわない。キョトンとして首を傾げていると、通りがかった職員らしきおじさんが悪びれることもなく「もう機械止めちゃいました」と言う。そう、既に「営業終了時刻=17時」を過ぎていたのだ。

(なんだ、もっとゆっくり見たかったなあ)
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そう思いつつ、手当たり次第に写真を撮って施設を後にした。

(おおそうだ、外観も撮っとかなきゃ)
と建物の写真を撮っていたら、「ガーーーーーーバシャン!」
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私が外に出て1分と経たないうちにシャッターが閉められた。

(なにもそんなすぐに閉めなくても・・・)
妙齢の受付嬢達(は私だけなのに受付嬢は2人もいた)は、「あのおっさん、なんでこんな時間に来とるんよ(※伊予弁がわからないのでテキトー)」とでも話していたのだろうか。

 

半島マニアの聖地を駆け抜ける

この旅でもっとも訪れたかった場所のひとつが、「佐田岬」である。
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(▲伊方ビジターズハウスには佐田岬の立体地図が展示されていた)

Googleマップを始めとして「佐田岬半島」と書いているサイトもあって、どうやら半島の先っちょを「佐田岬」、半島全体を「佐田岬半島」と呼んで区別しているようだが、だったらなぜ「佐田半島」じゃないのだろうか。まあとにかくこのブログでは「佐田岬」と書くが、先っちょだけじゃなくて半島全体を指す。

4年前のゴールデンウィークにクルマで四国・九州を廻ったとき、帰宅後にルートログを見ていていちばん悔やんだのは「佐田岬を通らなかったこと」であった。「うぅわ何ここ、なんでここ通んなかったかなあ」と、ツーリングに同行したかみさんに言ったことを覚えている。なぜ通らなかったかと言うと、恥ずかしながら「日本一細長い半島」の存在をまったく知らなかったからだ。だから、今回のツーリングにおける最重要目的地は「彼のお陰で10連休ができた」ということで「大分県にあるTK君の実家」で、その次が「佐田岬」だったのである。

そのくせ、もともとのノープランに加えて伊方ビジターズハウスで余計な時間を使ったせいで、後述する「遅れることは絶対に許されないイベント」に間に合うにはギリギリの時間しか残っていなかった。そのイベントに参加するのは生涯で2回目、オートバイでは初めてなので、できるだけ時間の余裕を持っておきたかった。

(どうすっかなあ・・・)
1分ほど迷ったが、愛用のPNDでルート情報を見る限り、行って帰ってくるだけなら30分程の余裕はありそうだ。

(じゃあやっぱ行くか!)
というわけで、途中の写真は一切なし。ノンストップで佐田岬の先っちょの駐車場に向かう。「左側に見えていた海が、コーナーを抜けると今度は右側に見える」というのは、まさに「日本一細長い半島」ならではの体験であった・・・って、写真に残していればなお良かったのだけど・・・いや、写真じゃ、右か左かなんてワカンナイか。

とりあえず、クルマ/オートバイで行くことができる所(佐田岬灯台駐車場)まで行って写真を撮る。f:id:ToshUeno:20170430175651j:plain

私のすぐ後にやって来たオフロード乗りが、観光案内板に見入って、何やら悩んでいた。f:id:ToshUeno:20170430175900j:plain

ここから「本当の先っちょ」まで行くには、この▼狭い遊歩道を1.8kmも歩かなければならないのだ。
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がんばって歩いても、到着した先で写真を撮ったりすることを考えれば往復約40分。イベントにはとても間に合わない。あきらめてこの場を立ち去ろうとする頃、1組の若い男女が寄り添いながら遊歩道の奥に消えていった。これから日没を迎える、最高のシチュエーションである。2人はきっと、他では決して見ることのできない、絶景を堪能することだろう。うらやましい。

後ろ髪を引かれる思いで駐車場を後にして、少し先にあるマシンを撮影するのに最適なポイントで景色を堪能する。
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クルマでもここに来ることはできる。ただ、鉄のハコに守られたクルマと全身が剥き出しのオートバイでは、感じる空気が違う。その違いは「その場所に来ることができた」という喜びの度合いに繋がる。
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眼下に広がる瀬戸内海と、そこに落ちようとする夕陽を見ながら、私はオートバイに乗ることができる喜びを感じていた。オートバイに乗ることができて良かった。オートバイでこんなに遠くまで来ることができる、五体満足な身体があって良かった。不本意だらけの人生ではあるけれど、佐田岬で感じた喜びは、かけがえのないものとしてこれからも心の奥に残り続けるだろう。

 

「私フェリーにしたの」

(「佐田」繋がりというわけではないが)さだまさしの佳曲「フェリー埠頭」は、私が小学6年生のときに初めて買ったアルバム「私花集(アンソロジィ)」に収められている。「檸檬」「案山子」「秋桜」「主人公」など、彼の代表曲が居並ぶ中に埋もれてしまうような地味な曲だが、私は小6のクソガキの頃から好きでよく聴いていた。兄貴に「男のくせに女言葉で歌っててキモチ悪い」なんて言われながら。見出しの歌詞は、

私フェリーにしたの

だって飛行機も汽車も

涙乾かすには短か過ぎるでしょう

と続く。「男にフラれた女が、フェリーに乗ることで感傷に浸るための時間を稼ぐ」まあそんな、センチメンタル・ジャーニーな曲である。私は女子でもなければ恋愛もしていない、チ○ポの勃ちも悪くなってきた萎れたおっさんだが、フェリーにしたの。だって本州に戻って福岡を通って大分に行くのは長過ぎるでしょう?

前日、蓬莱海浜公園に30分以上も留まっていたのは、実はフェリーについて調べて、予約までしていたからだ。佐田岬から大分に向かうフェリーがあるのは、ゴールデンウィーク前に会社でTK君とGoogleマップを見ていたときに気づいていたが、運航会社や時刻表などを調べたのは、蓬莱海浜公園で翌日の方針を決めてからが最初である。行き当たりばったりでも何とかなる。スマホって便利だな。

運航会社は「国道九四フェリー」。三崎発・佐賀関行。神奈川県民にとって「三崎」と言えば三浦半島だし、大分県にあるのに「佐賀関」だしで何だかワケがわからないが、まあとにかく佐田岬から大分県に向かう船である。

ネットで予約できるのは四輪だけで、二輪の予約は電話のみ、しかも1つの船に載せられる二輪はたったの8台、うち予約できるのは5台まで *3 という狭き門である。(オートバイには冷たいのね)と思いつつも、職員の皆さんがマシンの固定とかしなきゃいけないことぐらいは知っているので素直に電話をすると、「4月30日だと、いちばん早い時間で『19時30分』が1台だけ空いている」と言う。いったん電話を切って3分ほど悩み、ふたたび電話をしてその船を予約した。

というわけで、定刻 *4 の約30分前に「5番グリッド」に並ぶ。
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窓口が開くまで待って、楽天カードでチケットを買う(※窓口に立っているのは私ではない)。
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料金は、私とM109Rを合わせて3,650円。
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仮に高速道路を使って本州経由で大分県に行こうとすると、高速料金だけで1万円以上かかり、船では当然かからないガソリン代もかかるワケで、そう考えればぜんぜんリーズナブルである。さらに移動時間も比較にならないほど短い。ま、自称・ロングツアラーとしては、「ラクをする」ことに多少の抵抗感はあるのだが。

すっかり陽も落ちて、船が来るのを待つライダー達。
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・・・って、写っているのはひとりだけだが。

「19時30分出航」なのに、19時30分を過ぎてようやくオートバイを積載し始める。船旅に焦りは禁物である。
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そして無事「船上の人」になる。f:id:ToshUeno:20170430194029j:plain
ここがもし東京湾であれば、甲板に出て都内や横浜の夜景を堪能できるのだろうが、現実に見えるのはただただ漆黒の海である。1本の缶コーヒーを買い「窓際+最後尾」の理想的な席を確保して、そこに居座ることを決め込む。二輪がいちばん先に船に乗り込むので、「座席の確保」という意味では有利だ。

三浦半島ではない、佐田岬にある三崎港を19時40分に出港して、大分県にある佐賀関港に20時50分頃着岸。かみさんにLINEしたり、道中でまったく読んでいない新聞を読んだりしていたら、わりとあっという間に着いた気がした。

私のM109Rのすぐ後ろに固定されていたのは、BMWの超高級マシン「K1600GT」。国内発売当時に真剣に検討しつつも、そのあまりの高額さに断念した憧れのマシンである。
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こういう「いわゆる『シートバッグ』ではない、ソフト素材のトップケース」って初めて見たが、なんとBMWモトラッド純正である。さすが、金持ちは徹底している。BMW乗りにありがちな、BMW純正のジャケットを着込んだおじさん(と言ってもたぶん同世代)に、思わず「いいっすね~」と話しかけた。いろいろ聞いてみたかったのだが、おじさんはあまり話したくナサゲだったので「写真撮っていいですか?」とだけ聞いて撮らせてもらった。

横幅がありすぎてスリ抜けできなさそうなので、もう買おうとは思わないが(と言い聞かせて甲斐性のない自分をゴマかす)、やっぱカッコいい。

21時になる頃、最後から二番目の恋・・・また続編やってくんないかなあ・・・じゃなくて、最後から二番目に船を後にした。
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「フェリーはラクだ」ってことが身に染みてわかった、50歳を目前にしてようやく迎えた(オートバイでの)フェリー初体験であった。

 

3日目_走行データ

  • 走行距離=330.3km
  • 走行時間=8時間50分
  • 平均燃費=18.3km/L

(つづく)

 

*1:5月17日に高浜原発4号機が再稼働したので、これを書いている5月18日の時点では4箇所である

*2:さすがにもう20日近く前のことなので詳細は忘れてしまった

*3:残りの3台は先着順

*4:19時までに受付しないと「キャンセル扱い」になってしまう