四国・九州ツーリング2017~6日目+まとめ:昂揚と落胆と

ゴールデンウィークに行った四国・九州ツーリングから帰ってきて、はや1カ月以上が過ぎた。たった1カ月だというのに、あの日々がひどく昔のことのように思える。辛うじて残っている記憶の断片をつなぎ合わせながら、最終日とツーリング全体をふり返る。

toshueno.hatenablog.com



 

90分でもなんとかなる

はじめてのネットカフェ

5月3日に日付が変わろうとする頃、想定外の寒さと、それから来る強烈な眠気に襲われ、「どこかでヒト眠りしないとヤバい」状態に陥った。深夜ということで、ホテルや旅館に泊まるのはムリ。SA/PAで眠ることを考えて何カ所か見てみたが、眠れそうな場所はなかなかない。そもそも電車の中でさえ眠れないのに、不特定多数の他人が出入りする深夜の公共スペースでまともな睡眠をとれるはずもない。そこでふと思い付いた。
(ネットカフェだったら、眠れんじゃねえの?)
と。

前回、もったい付けて「とある施設」と書いたのは、何のことはない「ネットカフェ」のことである。「なぁんだ」と思うかもしれないが、通い慣れている人ならともかく、私はネットカフェなるものに一度も行ったことがないのだ。漫画は一切読まず、ゲーム類にもまったく興味がなく、ソッチ系のビデオなら拙宅でこっそり見れば良い。

昔は深夜まで酒を飲んで終電を逃し、カプセルホテルや健康ランドに泊まったことも多々あるが、当時はネットカフェなんて「社会インフラ」はまだなかった。そして今では、酒を飲むことさえない。ネットカフェなるものは、自分とは一生縁のないところだと思っていた。だから、ヨワイ・アラフィフのおっさんにとって、今回のネットカフェ泊はちょっとした「冒険」だったのだ。

というわけで、ちょっとだけドキドキしながら「自遊空間」という最大手?のネットカフェをネットで検索した。どこかの街角で看板ぐらいは見かけたことがあるが、まさかツーリング先で泊まることになろうとは・・・。

なぜか岡山

最初は、広島県に入った辺りで神戸の店舗を検索した。が、だんだん寒さがキツくなって「神戸まで行くガッツはない」と悟り、じゃあ広島で・・・と思って「広島本通店」に電話をして空き具合を聞いたりしたが、よくよく考えると、夜が明けてから広島から帰るのでは、関西方面で大渋滞に巻き込まれるのは確実である。

というわけで間を取って、岡山市内の店舗(岡山表町店)に行くことにした。

ちなみに、4年前にかみさんと四国・九州をクルマでツーリングしたときも、長崎観光を最後に帰路に着き、その途中で岡山市のビジネスホテルに泊まった。この時は「かみさん付き」なので当然行き当たりばったりではなく、全行程をきちんと計画した上で8泊分のホテルをすべて1週間以上前に予約したのだが、今回図らずもまた、岡山に泊まることになったのだった。

「治安は悪いです」

「自遊空間・岡山表町店」が入るビルの前にたどり着いたのは、5月3日の午前3時5分頃。当然、ビジネスホテルのように駐車場はないので、とりあえず隣にあるシャッターが降りた店舗の前にM109Rを停めて、ビルの6階にある受付に向かう。勝手はわからないが、まずは受付を済ませて荷物を下ろそう。

受付にいたのは、ジュウクかハタチぐらいの、幼い顔にツケマツゲが不釣り合いな女の子だった。
(こんな時間まで働いて大変だねえ)
と思いながら
「泊まりたいんですが」
と言うと、悪びれる様子は微塵もなく
「ただいま『リクライニングチェア席』しか空いてないんですがいいですか?」
と彼女は言う。
イスかあ・・・寝られっかなあ・・・)
と不安になったが、そこしかないんじゃしょうがない。だいたい、深夜27時過ぎである。空いているスペースがあるだけでありがたいと思うべきだろう。

名前・住所・電話番号を書いてシチめんどくさい手続きを終えた後、タンクバッグとヘルメットを両手に持ち、ただひたすらジャマでしかないキャンプバッグを肩に下げ、階段を上がって指定された「63番」のクソ狭いスペースに入る。
f:id:ToshUeno:20170503055733j:plain
使用する気はさらさらないので、デスクトップPCが置いてあるデスクの上にヘルメットを置き、さらに上着とTシャツ以外の服を全部脱ぎ捨てる。

なんとなく知ってはいたが、他のスペースとの間に「壁」と呼べるものはない。あるのは、ただの「仕切り」である。覗こうと思えば、仕切り越しに簡単に隣の部屋を覗くことができる(ヤロウの生態に特に興味はないので覗きはしないが)。

とにかくいちばんマイったのは、ヤニ臭いことである。仕切りの向こうから紫煙がプカプカと立ち上り、空調の効きが悪い室内を満たしている。「受動喫煙防止条例」はどうしたんだ?あ、あれは神奈川県だけか。おっとそんなことより、M109Rを「正規の場所」に移動しなくては。

受付に戻って、ダメ元で女の子に
「近くにバイク駐める場所ってないですか?」
と尋ねる。彼女は、今度はちょっと申し訳なさそうに

「・・・えーっと・・・店の前に停めていただくしかないですねぇ・・・」
と言った。ま、そりゃそうだよね。
「そうですか、わかりました」
と言ってエレベーターに向かおうとすると、
「あ、外出されるんでしたら、『預かり金』をいただきます」
と言われる。ふーん、めんどくせえんだなあ。「預かり金」1,100円を払ってから外に出て、M109Rを店の前に移動した。

ビルのすぐ近くでは、スケボーをやっているらしき「ガタン、バタン」「ガコッ、バコッ」という音と、数人の若者たちの嬌声が聞こえる。いまやSA/PAに停めていても目立つマシンでもなんでもないM109Rだが、こういう場所に停めるとさすがに目立つ。
(これ、ガキどもにイタズラされんじゃねえの)
と不安になる。悪気もなく、オモシロ半分で傷を付けられたりしたら、萎え切って帰るどころではなくなってしまう。傷ぐらいならまだしも、走行不能な状態にでもされたら、一週間は立ち直れない。つまり、連休が明けてもまだ岡山市内で暮らすハメになってしまう。

受付に戻ってから、彼女に聞いた。
「この辺は治安はいいですか?」
すると、今までニコリともせず一貫して無愛想・無表情で接客していた彼女が、満面に笑みを浮かべながら
「(治安は)悪いですねぇ ○○(※聞き取れなかった)って場所が近くにあるんですけど、そこに□□(※また聞き取れず)があってちょっとヤバい感じで、そこにいる人達がこっちの方に来たりすることもあるんで・・・」
と、私を恐怖のズンドコ(©寺島純子)に突き落とすようなスエ恐ろしいことを、さもうれしそうにケロッと言う。一介のヨソ者に対して、そんなうれしそうに「わが街の治安の悪さ」を肯定されたら、こっちはもう笑うしかない。

ワルガキどもにM109Rが見つからないことだけを心から願って、「ヤニ部屋」に戻った。

まさに「レム睡眠」

寝る前にシャワーを浴びたかったが、シャワールームにはカギが掛かっていて「店員にお申し付けください」と書いてある。
(ったく、めんどくせえなあ)
と思いつつまた受付に行くと彼女は不在で、どこかでアブラを売っているのか、なかなか戻ってこない。2分ほど待ったが来る気配がないので、めんどくさくなってシャワーはあきらめ、歯磨きだけして「リクライニングチェア席」に横になった。時刻は午前4時10分。
(こんなんじゃ寝られねえよ)
と思った瞬間、眠りに落ちていた・・・。

・・・「はっ」と目が覚めて、ものすごくよく眠った気がして、
(うぅわ、ちょー寝たな、9時ぐらいかな)
と思って時計を見る。午前5時40分。たった90分しか寝ていない。でも、そのワリには少しスッキリした気分だ。まさにレム睡眠。

nemuri-lab.jp

そしてまた帰路が始まる

(バイクだいじょうぶかなあ)
気がかりは、ただそれだけである。でもまあ、焦っても仕方ないので、とりあえず「部屋」のすぐ真後ろにあるドリンクベンダーでウーロン茶を飲み、
f:id:ToshUeno:20170503055741j:plain
その隣にあるトイレでひとフン張りし、顔を洗い、歯磨きをして、服を着込む。
(あ、風呂入ってねえんだった)
泊まりのツーリングで、風呂に入らなかったのは初めてだ。
(ま、なるべく他人に会わないように帰ればいいか)
何と言っても、5連休の初日である。SA/PAはどこも人で溢れているだろう。できもしないことを考えながら、この日最後に「会話する他人」になるであろう受付の女の子に帰る旨を伝える。約2時間ぶりに会った彼女は、またデフォルトの無愛想・無表情に戻っていた。いくらだったか忘れてしまったが、(思ったより安いな)という料金を支払って外に出た。

愛車・ブルバードM109Rは、薄情なオーナーが戻ってくるのをケナゲに待っていた。
f:id:ToshUeno:20170503060853j:plain
何がいちばんうれしかったかって、私の心配が杞憂に終わったことである。

5月3日、午前6時10分。f:id:ToshUeno:20170503060846j:plain地元では治安が悪いことで有名な「岡山市北区」から、帰路が再開された。

 

山陽自動車道

例によってここからは、高速道路をただひたすら東に向かった、その「休憩ポイント」を時系列で列挙する。

三木SA

兵庫県三木市。7時55分頃。この日最初の給油をする。ガソリンスタンドには長蛇の列ができていた。
f:id:ToshUeno:20170503075338j:plain
クドいようだが、5連休の初日である。この程度の行列は覚悟しなければならない。
(しょうがねえ、のんびり待つか)
と思ったのもツカの間、あっという間に自分の番が回ってきた。
(やっぱ、時代はまだまだ内燃機関だな)
これがもし電気自動車だったら、2時間は待たなければならない。ゴーンさんがいくら「オレには先見の明があった」と鼻高々になろうが、日産ディーラーの営業がユーザーの不利益は省みずメリットばかりを並べ立ててリーフをゴリ押ししようが、電気自動車は「まだこれから」の商品だと、こういうケースに遭遇すると痛感する。

淡河(おうご)PA

兵庫県神戸市。8時20分頃。この時点ではまだ、道路にもSA/PAにも余裕があった。
f:id:ToshUeno:20170503081947j:plain
しかしこの後、名神高速道路では「5連休初日ならでは」の大渋滞が待っていた。まあ大阪圏に突入したのが午前8時過ぎでは、渋滞に巻き込まれるのも致し方ない。ただただ、自分自身の体力の無さを恨むしかなかった。

おとなしく、おクルマの皆さんといっしょになってチンタラと・・・

toshueno.hatenablog.com

・・・んなわきゃない。

 

新名神高速道路

土山SA

滋賀県甲賀市。10時30分頃。こうして写真を見ると二輪車駐車スペースの周辺は閑散としているが、奥の商業施設内は人でごった返していた。
f:id:ToshUeno:20170503102847j:plain

ここで印象に残っているのは、喫煙スペースにワラワラと群がる人達である。喫煙スペースというと大概は施設のスミっこの狭苦しい場所に追いやられていて、喫煙者達はそこで肩身の狭い思いをして○○ヅラを晒しながら紫煙をくゆらせているワケだが、このSAは敷地が広いからか、珍しくオープンな場所にあるので特に目に付いたのだろう。
f:id:ToshUeno:20170503102852j:plain
それにしても、今日日これでもかってほどにタバコの害悪が喧伝されているのに、未だ頑なにタバコを吸い続ける人達っていったいなんなんだろうって思う。まあ早死にしたいのはテメエの勝手だし、決められた場所で吸う分には文句は言わないが、膨張する社会保障費への懸念が叫ばれる昨今、そろそろ喫煙者からは「非喫煙者の5倍の健康保険料」を徴収すべきだろう。

 

東名高速道路

美合PA

愛知県岡崎市。12時25分頃。
f:id:ToshUeno:20170503122323j:plain
このPAは、「なるべくヒトのいないところ」を狙って入ったPAの中では、いちばん賑わっていた。

道路自体も(愛知県に入れば空いているだろう)と思いきや、東京方面に向かう関西圏/中京圏ナンバーのクルマが意外に多かった。
f:id:ToshUeno:20170503122335j:plain
神奈川に住んでいると「大型連休で首都圏から出ていく人達」にばかり気を取られてしまうが、当然「入ってくる人達」もいるわけで、その数の予想外の多さにはちょっと面食らった。

 

牧之原SA

静岡県牧之原市。13時50分頃。2回目の給油をする。
f:id:ToshUeno:20170503134841j:plain

日本坂PA

静岡県焼津市。14時20分頃。
f:id:ToshUeno:20170503141938j:plain

静岡県内に入ると、はっきりとわかるほどクルマが少なくなった。ってことは、あの関西圏・中京圏ナンバーの皆さんはいったいどこに向かったのだろうか。
f:id:ToshUeno:20170503142008j:plain
私はてっきりTDR辺りだと思っていたが(それにしても日本人のディズニー好きは異常だ)、富士山?伊豆?それとも「スズキ歴史館」だろうか。

toshueno.hatenablog.com

愛鷹PA

静岡県沼津市。15時20分頃。
f:id:ToshUeno:20170503151741j:plain

この旅でひとつ、新たに決めたポリシーがある。「クルマと同様に、オートバイも後ろ向きで駐車しよう」ということだ。入庫のときに面倒でも、出庫のときにスムーズな方が気分が良い。
f:id:ToshUeno:20170503151755j:plain
見よ、この省スペースな駐車を。他車のジャマになるサイドスタンドが、柱と柱の間に完璧に収まって、占有幅を最小限に抑えている・・・ま、これは前向き/後ろ向きは関係ないんだけど、ここの駐車スペースに限って言えば、この停め方が非常に美しいと思ったのだ。

 

四国・九州ツーリング2017_まとめ

愛鷹PAから先は一度も休憩せず、渋滞に巻き込まれることもなく、東名道から圏央道に入り、さらに新湘南バイパスを経由して、17時少し前に戸塚に到着した。
f:id:ToshUeno:20170503165131j:plain
6日ぶりに見た戸塚の街並みはまったく何にも変わっちゃいなかったが(そりゃそうだ)、6日間毎日違う景色を見ていた目には、見慣れた風景がひどく懐かしいものに映った。

6日間の合計走行距離は3,078km。自称・ロングツアラーとしては、ぜんぜんたいした距離ではない。

とは言え「たったひとりで6日間」というのは、自身最長の旅であった。「ロングディスタンス」ならぬ「ロングターム」ツーリングというわけだ。たった6日で「ロングターム」だなんて、カソリさん木枯し紋次郎にハナで笑われてしまうが、その間に改めて気づいたのは「精神面の安定では、かみさんに多くを依存している」という事実だ。出張等の予め帰る日が決まっている旅ならともかく、何も決めずに彼女との距離を日に日に遠ざけていく旅は、同時に心に「澱」を溜めていく行為でもあった。

そんなこともあってか、相変わらず上手な旅はできなかった。ただ「私がその場所を走った」という事実だけがあり、他人にひけらかす逸話は何も残らなかった。佐田岬で見た左右に広がる海も大分のリアス式海岸のグネグネ道も、私ひとりが見て私ひとりが感じただけで、その時の昂ぶりを誰かに伝えることができない筆力の低さに落ち込みながら、10回に渡って記録を書き続けた。

それでもこうして、少しずつ「この国で走ったことのある道」を増やしていって、その道程をひとつひとつ記事にすることは、このシガナい凡人の「生きた証」でもある。オートバイに跨がれなくなるその日まで、ふたつの拙い行為は続いていくだろう。

・・・なぁんて書きつつひとつ問題なのは、ゴールデンウィークのツーリングから1カ月以上が過ぎた今でも、オートバイに跨がる気がまったく起きないことである(※毎日の通勤時の片道10分、125ccスクーターには乗っているが)。

 

6日目_走行データ

  • 走行距離=657.2km
  • 走行時間=9時間13分 ※深夜帯は除く

(この項おわり)