被災3県ツーリング2017年11月_1日目~福島県浜通り

2017年11月23日からの4日間、愛車スカイラインクーペで福島・宮城・岩手各県の沿岸部を北上してきた。まずはその1日目、福島県浜通りでの出来事を中心に書く。



 

「被災地に行きたい」と彼女は言った

2017年の「勤労感謝の日」は木曜日。翌日の金曜日を休めば、4連休になる。有給休暇というものをめったに取ろうとしないかみさんが、珍しく金曜を休んで旅行に行こうと言う。私の方も、5月中旬から延々と続いて心身をズタボロにしてきたプロジェクトがようやくひと区切り付いたので、まあ休めなくもない。4日もあれば、それなりに遠くまで行けるだろう。

当初は、能登半島に行こうと考えた。今年の7月頃だったか、出川の哲ちゃんがエレキ原チャリで旅する番組で紹介された「しお・CAFE」に行きたいと、ずっとかみさんが言っていたからだ。また、5年前 (2012年) に宿泊した「珠洲ビーチホテル」は、ふたりのお気に入りでもある。

だが、10日ほど前の天気予報では、当該ホテルがある珠洲市の天気があまり良くない。11月下旬ということで相当低いであろう気温に加えて雨にも降られたのでは、せっかくの海沿いロケーションもあまり楽しめないだろう。

次に彼女が候補に挙げたのは、私の実家がある会津である(と言っても、実家に寄ることはヒャクパーない)。が、日帰りならともかく、4日間も会津で何をするのか、皆目見当が付かない。私にとっての会津は「観光地」ではなく、あくまで「ガキの頃、親の加護のもとで暮らしていた場所」に過ぎないのだ。ピュアでナイーヴでドーテイだった時期に作った数え切れないほどの思い出は、別にその場所に行かなくても、いつでも思い返すことができる。

会津も却下すると、彼女がぽつりと言った。「じゃあ被災地に行ってみたい」と。

東日本大震災で大きな被害を受けた岩手・宮城・福島の沿岸部は、オートバイでは何度も行っているが、クルマでは一度もない。私はニケツはしない主義なので、つまりかみさんは、一度も被災地には行ったことがないのだ。

3日もあれば、被災3県の沿岸部をざっと見ることはできるだろう。4日目は、「あまちゃん」の舞台である岩手県久慈市を見て帰ってくれば良い。久慈駅前から拙宅までは、700km強。昨年10月のオートバイでのツーリングでは、「16時頃に久慈駅前を出て、26時52分に拙宅に着いた」とブログに記録されている。

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このときはあまりの寒さに、頻繁に休憩を取りながら帰ってきたのだが、今回はクルマである。「寒さ」に対する心配は要らない。渋滞さえなければ、昼に帰路に着いても余裕で22時までに帰ってこられるはずだ。

それでうまくいくはずだった。が、結果はそうはならなかった。

東北の、しかも会津というこの国有数の豪雪地帯で生まれ育ったくせに、11月下旬という時節を、東北地方内陸部の気候を、そして何より「雪」というものを、完全にナメていたのだ。

 

どろだらけの海

11月23日の午前8時15分頃、拙宅駐車場を出た。戸塚は本降りの雨であった。オートバイによるツーリングならソッケツで中止にするところだが、クルマの場合はそれほど関係ない(たとえクルマでも、雨だと楽しくはないが)。

雨が降っているからか、それとも翌日が平日だからか、午前8時過ぎだというのに横浜新道も首都高も常磐道も渋滞はまったくなく、昼過ぎに「いわき勿来IC」で一般道に降りる。今回はクルマによる「かみさんのためのツーリング」なので、普段は基本的にスルーする道の駅にも積極的に寄るのだ。

最初に立ち寄ったのは、いわき市四倉町にある「道の駅よつくら港 (愛称:429Love)」である。
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昼飯どきということで、フードコートはほぼ満席状態だったが、
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(▲写真はだいぶ人がハケてから撮影したもの)

2階いちばん奥の一段高いフロアにある「海カフェ」は、地元民と思しきおばさまが1組 (2名) いただけ。「昼飯にパンを食う」なんて人種は、この界隈には少ないのだろう。
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私もひと昔前なら「えーっ!?パン!?」なんて悪態をついていただろうが、もう何年も平日は昼飯を食べていないので、パンでじゅうぶんなのだ。

というワケでごった返すフードコートを見下ろしながら、アップルパイとバタークロワッサンをアイスコーヒーで流し込む。期待はしていなかったが、なかなかの美味であった。

窓の外に視線を移すと、堤防と水門が見える。
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公式サイトには、センスのカケラもないポップ体で「太平洋を一望できる道の駅」とあるが、堤防に隠れて海はほとんど見えない。

というわけで食事が終わった後、かみさんを道の駅構内に放置して、ひとり堤防の外まで歩く。いつ見ても雄大な太平洋の姿はそこにはなく、一面に「どろだらけの海」が見えた。
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この日は祝日ということで休工だったが、護岸工事はまだ続いているようだった。
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そう、真新しい建物からも想像が付くとおり、ここもまた被災地なのだ。
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富岡は負けん!

イチニッパー

富岡町は4年前 (2013年) 、まだ復旧工事もろくに始まっていない頃にオートバイで訪れて、その荒廃ぶりに衝撃を受けた町である。
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(▲撮影:2013年7月14日)

福島第一原発事故の影響をまともに受けた市町村は少なくないが、大熊町や双葉町と違って、富岡町は当時から私のような者でも立ち入ることができ、「人間が住めなくなった街」の痛々しさを肌で感じられる貴重な場所であった。

今年の4月に避難指示区域も解除されたが、5月1日現在の町内居住者数は、わずか128人。国道6号を北上すると最初に「街」の様相を呈するこの撮影ポイントからの眺めも、4年前とほとんど変わっていない。
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ただ、工事関係車両であろう大型トラックを中心に交通量もずいぶん増えたし、アコムの廃墟があった場所には、新しくローソンができていた。

さくらステーションKINONE

常磐線の富岡駅が10月に開業したことは、新聞で読んで知っていたので行ってみた。駅よりも先に目に入ったのは、それに隣接している「さくらステーションKINONE」である。
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私のプアな記憶力ではその名前を脳裏に留めておくことはできなかったが、何やらコンビニ的な施設もできた、と記事で読んだ気がしないでもない。

店頭には、富岡町名物「夜ノ森の桜並木」の見事な写真が掲げられている。
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こぢんまりとした店構えも品揃えも、中身はまんまコンビニである。私はトイレをお借りしただけだが、かみさんはココゾとばかりに、車内でムサボるお菓子を大量に買い込んでいた。
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私はトイレをお借りしただけだが、かみさんがいろいろ買ったので、レジのおばちゃん二人組に堂々と「夜ノ森の桜はどの辺にあるのか」聞いてみた。ネットで調べりゃすぐにわかりそうなもんだが、地元の人と触れ合うのが旅の醍醐味ってもんである。ま、気軽に他人に話しかけられるようになったのなんて、ついここ数年のことなのだが。

おばちゃんAが、富岡町マスコットキャラクター「とみっぴー」が効果的に散りばめられた「とみおかTOWN MAP」を引出しから出して、説明してくれた。
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私「これはいただけるんですか?」
おばちゃんA「すみません、これ1枚しかないんですぅ」
私「あ・・・そうですか・・・」
おばちゃんB「写メで撮ればいいんじゃないですか?」
私「あ!そうですね!」

そんなホノボノしたやり取りをしながら、たった1枚しかない超貴重な「とみおかTOWN MAP」を写真に収めた。

ちなみに「とみっぴー」は、富岡町の鳥である「セキレイ」の妖精(笑)だそうだ。そう聞いて「セキレイ」がどんな鳥か、すぐに思い浮かべられる人がはたしてどれだけいるのかは疑問だが(私は名前さえ知らなかった(恥))。

夜ノ森の桜並木

「夜ノ森 (よのもり)」という名前は静謐で、かつどこか妖しい。とてもステキな地名だと思う。

関越道を走ると「月夜野 (つきよの)」という地名があって、実際に山あいの漆黒の中に月明かりが射し込んだりして(うわ、まさに『月夜野』、スゲえ)と思ったりするのだが、そんなワケで私の中では、「好きな地名ベストテン第1位」をずっとこの2つが争っている (※2017年12月現在)。

そんな夜ノ森で今年の4月、7年ぶりに「夜ノ森桜まつり」が開催されたことを伝え聞いて何度も来ようと思ったのだが、忙しさにカマけて、ついに来ずじまいであった。
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ご覧のとおり▲、言うまでもなく11月下旬には寒々しい景色が広がっているだけなのだが、この場所を訪れたのには「春に来なかった」という懺悔と、「来年の春は必ず来よう」という誓いの意味がある。

約5分間ロチュウしている間、歩行者はもちろんのこと、ただの1台もクルマが通らなかったが、来年の春にはきっと、満開の桜とともに賑わいが戻ることだろう。

桜並木の入口ワキには、校門が閉鎖された「富岡町立富岡第二中学校」がひっそりと佇んでいた。子供たちの姿が消えたままの校庭には、誰が見るわけでもない線量計が、刻々と放射線量を表示していた。
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ここにもまた、虚しく、やりきれない風景が広がっている。この町に来るたびいつも思う。どうしてこんなことになってしまったのか、と。

 

誰もいない駅

いったん富岡町の中心部に戻った後、国道6号名物「二輪車とおせんぼポイント」もクルマなので難なくスルーして、北上を続ける。

16時50分頃、ガキの頃の思い出の地・相馬市にたどり着く頃には、辺りはすっかり「夜」になっていた。都内や横浜(戸塚だけど)と比べても日没の時刻はたいして違わないが、街の灯りが圧倒的に乏しいぶん、暗闇がヤケに重く心にのしかかってくる。

何も見えない闇の中を走る重圧に耐えられなくなり、早々にホテルにチェックインすることにして、その前に「道の駅そうま」に立ち寄る。

祝日の、まだ17時少し前だと言うのに、構内は閑散としていた。
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フードコートも、(これ営業してんのかな?)と不安になるほどヒトケがなかった。
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あまりの活気の無さに一抹の寂しさを覚えながら、別棟にある「震災伝承コーナー」に見入る。福島県の場合、どうしても福島第一原発に関連する話題に耳目が行きがちになるが、相馬市を始めとした浜通り北部は津波の被害も相当大きかったのだ。
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このスペースは本来、道路情報を表示したり地域の話題を提供するために設けられたはずだ。正直に言って展示内容はプアだったが、これだけのスペースをまるまる占有して震災の記憶を繋ぎ止めよう繋ぎ止めようとする試みは、とても有意義なことだと思う。

 

近くて遠い松川浦

本当は松川浦とか、海に近い場所に泊まりたかった。ガキの頃、今は亡き父と母、すっかり疎遠にして久しい兄貴姉貴との5人で家族旅行に訪れた、思い出の場所だからだ。 

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が、まいど御用達の楽天トラベルでは、相馬市の海側には手頃なホテルがなかった。楽天トラベルを経由しなければホテルの1つや2つはあるだろうが、それでは楽天ポイントが付かない。ビンボーなおっさんにとって大事なのは、思い出よりポイントなのだ。

そんなワケで、楽天トラベルで予約してあった「ホテルコーラス相馬」に、17時25分頃たどり着く。このホテルは海からはだいぶ離れているが、楽天トラベルで「4.51」という驚異の高評価をゲットしている。
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それにしても、写真▲のタイムスタンプがまだ「17時29分」だというのに、辺りは真っ暗闇である。

楽天トラベルのクチコミで、わずか3件しかない「評価=2点 *1」の投稿のコメントに

場所のせいもあるけど・・・暗い、暗い・・・
もう少し明るくならないかな? 

とあって、思わず笑ってしまった。まさしく、このホテルの第一印象は「暗い」である。

値段(夫婦2人で13,800円)の割には広めの部屋で少しまったりした後、晩飯を食べに外に繰り出す。あまりの真っ暗闇っぷりに何の店もないと思いきや、国道6号を渡って(信号が長い!)すぐのところに「お好み焼き 道とん堀」や
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東京発祥豚骨ラーメン 哲麺縁」がある。
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が、「相馬なのに『道頓堀』とか『東京』じゃねえだろ」というわけで、結局ホテル内の「『レストラン』という名のレストラン」に落ち着いた。
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酒を一切断ったゼロリスク主義者の私は、もちろん旅先でも酒は一滴も飲まずに、「肉ソバ」や
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「焼きししゃも」などで空腹を満たした。
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どの料理も特別おいしくはないが、べつにマズくもない。メニューも結構豊富だし、ビジネスホテル内に設けられたレストランとしては、じゅうぶん及第点だろう。

途中、作業着を身にまとった工事関係者と思しき若者4人組が隣の席に来て(酔っ払って騒いだらうっとうしいなあ)と思ったが、「あの梁がちょっと斜めになってて」などと、みな真剣に仕事の話をしていた。至ってジェントルな若者たちであった。

新しくてキレイで静かな「ザ・ビジネスホテル」には満足したが、ただ、潮騒も聞こえなければ、磯の香りもしない。私が望んでいた「相馬感」はまったくなかった。楽天ポイントなどという、チマチマした実利に心を奪われてしまった後悔に包まれながら、小学5年生以来・実に39年ぶりの相馬の夜は、ただ静かに更けていった。

  • 走行距離=369.6km
  • 走行時間=7時間3分

(つづく)

 

*1:「評価=1点」は1件もない