「思い入れがあるんです」と彼は言った:ブルバードM109R_6カ月点検
2019年3月2日、このところまったく乗っていないブルバードM109Rの6カ月点検をしてきた。
いつもどおりレッドバロン戸塚にM109Rで行って、預けて、展示車を見ながら1時間ほど待って、そんで受け取ってまた帰ってきた、ただそれだけのことなのだが、ひとつ寂しい出来事があったので書き記しておく。
趣味は大切にしよう
2010年5月に購入した、チューコのスズキ・ブルバードM109R (2008年式)。
2016年までは毎年コンスタントに年間約1万kmを走行してきたのだが、2017年はその半分、昨年 (2018年) に至っては、年間で1,000kmにも届かなかった。というか100km以上走ったのは、3月下旬の「伊豆半島海沿い一周」のみ。それ以外はみなチョイ乗りで、10月以降はそれさえもしなかった。
もう1台の二輪車であるホンダ・PCXは通勤に欠かせないし、四輪のスカイラインハイブリッドは買い物などの“アシ”として必要である。 そう、フツーに生活する上においては、M109Rはなくても困らないのだ。そんな様子を見てかみさんは、「乗らねえバイクなんて売っちまえよ!」と悪態をつく。
たとえ何カ月間も乗らなくても、かみさんに罵倒されても、それでも私は、M109Rを手放さない。「オートバイによるロングツーリング」は私のたったひとつの趣味であり、M109Rは、ある意味その“主役”だからだ。
高速道路を通ることが許されないPCXでは、ロングツーリングには出られない。「下道でのんびりトコトコ」できるほど、ヒマではない。
かと言って細い道には入れず、ホイホイと停車もできないスカイラインでは、思うような旅をすることができない。数年前、前車スカイラインクーペで四国・九州ツーリングに行った時も、あんまり楽しくなかった。
風の吹くまま気の向くままに道を逸れ、思い立ったら停車して写真を撮る、モノ思いにフケる、詩を書く、歌を詠む。それこそが私にとっての「ツーリング」なのである。まあ後の2つはウソだけど。
とにかくヨワイ51の残り少ない人生、趣味は大切にしなければいけない。
2006年にブルバード400でリターンしてから、2017年GWの「四国・九州ツーリング」まで、曲がりなりにも足かけ10年近く *1 続いたのだから。そんな趣味は、そう簡単に見つけられるものではないのだから。
クソみたいな仕事で精根尽き果てたとしても、それ以外の時間をただディスプレイの文字を追うことに費やしてしまっては、カラダが不自由になってから、きっと後悔するに違いない。
レッドバロン戸塚:2019年3月2日の特撰展示車
11年落ちでだいぶヤレてきたM109Rの代わりになるマシンはありますか?
もちろん、店員さんにそう聞いたわけではない。買う気もないのに軽はずみな発言をして、怒濤のセールストークをカマされたんではたまったもんではない。
そんなことを思いながら、レッドバロン戸塚の展示車両を見て回った、という話。
その中から、気になった車両の、気になった点を紹介する。
ホンダ VFR1200F (2010)
まず最初に気になった車両は、VFR1200Fである。
ちょうど現在所有しているM10Rを購入した頃にデビューしたマシンで、当時から(いいなー、カッコいいなー)と思っていた。
そんなあこがれのマシンが、
- 走行距離:4,320km (!)
- 税込価格:898,000円
という低走行・低価格で売られていた。
9年も前の車両が、たったの走行距離4,320kmって、いったいどんな使われ方をされてきたのだろう・・・と思ったが、去年の私のペースであれば、9年経っても5,000kmにも届かない。
なるほど、買ってはみたものの乗る気にもなれず、かと言って売る気にもなれず・・・そんな感じで幾年月を過ごしてきた個体なのかもしれない。
パッと見はとてもキレイだったので、(なんでこんなに安いんだろう?)と不思議だったが、よく見ると右側のメインカウル、ちょうどホンダのウイングマークがある辺りに、ひとつひとつは小さいけれど無数のキズがついていた。残念。
オートバイの場合、クルマと違ってこのテのキズを補修してくれるショップがなかなかない。どうせならキレイにレストアした上で店頭に並べればいいと思うのだが、そこがオートバイ業界の不可解なところではある。
まあ典型的な「低年式・低走行」車であるし、いざ購入するとなるとちょっと勇気が要るだろう。
スズキ GSX1300R (2017)
このリアルにブルーなハヤブサは、安心の(?)新車である。ただし既に2年落ち。
ハヤブサ・ZX-14R・CB1300の3車種は、「街でもっとも多く見かける国産大型二輪」なので選択肢としては面白味はないが、裏を返せば、それだけ「万人に受け入れられる特性」ということなのだろう。
クセのカタマリのようなM109Rから乗り換えるのは、やはりちょっと勇気が要る。
カワサキ ZX-14R (2019)
こちらのZX-14R (元ZZR1400) は、できたてホヤホヤの2019年式である。でもそれほど興味はなかったのでテキトーに写真を撮った。
税込販売価格は、輸入元であるBRIGHTのWebサイトに記載された希望小売価格と同じ、1,684,800円。
もはや見慣れた感じのこのツラ構えはあまり品がいいとは思えないが、
シート下をよく見ると、何やらブッといグリップがある。なんと、センタースタンドが付いているではないか。そして、カワサキ“伝統”の収納式荷掛フックも「カチッ」と節度感があって、とても心地いい。思わず「カワサキ、スゲえな・・・」と独り言ちてしまった。
ZZR1400乗り *2 のみなさんにとってはごく当たり前のことなんだろうが、ぜんぜん知らなかった。ガラのよろしくないフロントフェイスに反して、さりげなく細かい使い勝手にこだわった、マジメなツアラーだったのだ。
家に帰ってからじわりと気になりだして、(ああ、もっとちゃんと写真撮っとけばよかったなあ)と後悔したのだった。
ホンダ CB1100RS (2018)
店内のカウンターのすぐヨコに、真新しいCB1100が鎮座していた。
パッと見た時は(あれ?ホンダって、大型の新車はウイング店以外では売らないんじゃなかったの?)と思ったが、中古車を示す薄緑色のタグが掲げられている。
(ずいぶんキレイなチューコだな)と思いつつタグを見たら、走行距離はたったの「12km」。自分の心の中で「コイツは新車なんだ」と思い込んでも、じゅうぶん許される距離である。
税込価格は1,280,000円。どういった経緯でここレッドバロン戸塚に流れてきたのか定かではないが、(見た目はダサいものの)トップケースも立派なステーも付いているし、まあまあお買い得ではないだろうか。
ただ個人的には、このホンダ伝統の空冷エンジン以外には、あまり興味がない。
もし、リビングにオートバイを飾っておけるような恵まれた住環境を手に入れられるなら、そのためだけに所有したいマシンではある。
どうかお元気で、S工場長
点検とオイル交換とオイルフィルター交換とファイナルギアオイル交換が終わり、いつものように洗車もしてもらって(本当にありがたい!)、いつものようにS工場長が“お見送り”に出てくれた。
が、いつもと何か様子が違う。
少し違和感を感じながらふたりでM109Rに近づくと、S工場長が切り出した。
S工場長「今日は、ウエノさんにお伝えしなければいけないことがあるんです」
私「えっ・・・なんですか」
S工場長「実はワタシ、このたび退社することになりまして・・・」
私「ええーっっっ」
S工場長は、レッドバロン川崎幸店のF工場長(この人はもう接客のプロ!)のような熟れた感じはないが、控えめで腰が低くて、いつも柔らかい笑顔を湛えた好青年である。
おそらくは、私と同様の人見知りだと思う。F工場長の“とっつきやすさ”にすっかり慣れ切っていたので、戸塚店に来た当初はそれが居心地の悪さをもたらしていた。
でもある時、「ツーリングでどこ行っても、いつも決まってコンビニ飯」なんてことを話したら、「それはホントもったいないですよ!」と彼が真顔で返してきたことがあった。いつもの柔らかな笑顔が消えたその表情に少し驚いたが、ツーリングをとことん楽しもうとする“気概”を感じたのだった。これは以前このブログにも書いた“逸話”だが、その頃からお互いに人見知り同士でも、気楽に向き合えるようになったように思う。
他の客とカウンターで話し込んでいたA店長もすぐに小走りでやって来て、いっしょに「別れの挨拶」をしてくれた。
「まだここに来たばっかりの頃に、このバイクのタイヤを交換したんですよ、だからこのバイクには、思い入れがあるんです」
「いろいろ、このバイクのことを勉強させてもらいました、ありがとうございました」
「街でこのバイクを見かけたら、声をかけさせてもらいます」
そう彼は言った。
「そろそろ買い換えようと思ってるんです」そんな無粋な言葉は飲み込んだが、その一方で、気の利いたことは何も言えなかった。こうしていいトシをブッこいても、相変わらず機転が利かない自分を恥じた。
だから、アクセス数“通算”95万 *3 のこの超人気ブログに惜別の言葉を書く。
S工場長、3年間たいへんお世話になりました。
ようやく気兼ねなく話せるようになったのに残念です。
どうかお元気で。とりあえず元気で。
またいつか、この世界のどこかで会いましょう。
できれば、オートバイに跨がっている時に。