今年も8月に「夕凪の街 桜の国」を見た

夕凪の街 桜の国

今日から8月。8月初旬には、毎年この映画を見ると決めているのである。 

夕凪の街 桜の国 [DVD]

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広島のある

日本のある

この世界を

愛するすべての人へ

という静かな字幕で始まるこの映画の前半部分は、昭和33年夏の広島を舞台にしている。

”ヒロシマ”というと、原子爆弾投下直後をテーマにした映画は数多いが、この映画は、「戦後も広島の人々はそこに慎ましく暮らしていた」という当たり前の事実を、戦争はもちろんのこと、”戦後”さえもよく知らない私たちに教えてくれる稀有な映画なのである。

 

ぜんたい この街の人はみな不自然だ
誰もあのことを言わない
いまだにわけがわからないのだ 

前半に女湯のシーンがある。この主人公・平野皆実(演:麻生久美子)のモノローグとともに、痛々しいケロイドが残った女性達の裸が描写される。そこで、その「当たり前の事実」に初めて気づかされるのだ。

そして、原子爆弾が他の兵器と異なるところは、後世に渡ってずっと人間の身体に悪影響を与え続ける、という点にある。主人公の皆実は、原爆被投下直後は無事だったものの、いわゆる「原爆症」によって13年後に命を落とす。

 

なあ、うれしい? 13年も経ったけど、原爆を落とした人は私を見て、「やった、またひとり殺せたって、ちゃんと思うてくれとる?

強烈なアイロニーを含んだ主人公のモノローグで、前半部分「夕凪の街」は終わる。

麻生久美子の、”はかなさ”を湛えた表情と全身から力を抜いた芝居が、原爆症で亡くなっていく女性の苦悩を存分に表現していて悲しい。昭和30年代の広島の街並み(原爆スラムとその周辺)も、セットとCGでリアルに再現されている。

あえて色のトーンを落とした前半部分には、戦後間もない広島市の庶民の”哀切”が、全体をとおして流れていて、何度見ても涙が止まらない。今年もティッシュペーパーを10組20枚消費してしまった(笑)。

▼撮影:2007年9月17日
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今年も、広島の夏は暑いだろう。

70年前の夏、理不尽に殺されていった数多くの人達と、戦後も苦しみながら生き、そして”病”に冒されて死んでいった人達の存在が一片でも無駄にならないよう、戦争という人間が行う最も”くだらない”行為が何をもたらすのかを、われわれは忘れてはいけないのである。