“格安”長距離バスにはもう乗らない方がいい
もともとこちらの記事を先に書いていたのだが、月曜日にたった「6cm」の“大雪(笑)”で散々な目に遭ったので、そちらの話題を優先した。人間、遠くの大惨事より、近くの小事なのである。
というわけで時系列が前後してしまったが、やはりこの話題にも触れておきたい。
「東京~大阪 3,200円」を目にして考えた
昨年暮れ、伊豆半島を一周し終えた帰り道、寒さに凍えながら東名道上り線の左端をチンタラ走っているとき、
右側をブチ抜いていった長距離バスのリアウィンドウに掲げられた広告を見て驚いた。
東京←→大阪 3,200円
(さ・・・さんぜんにひゃくえん??? )
例えば新幹線+在来線なら、「東京~大阪」間は自由席で13,620円、その4分の1以下である *1。
まあ「東京~大阪」間が3時間もかからない新幹線と、9時間近くかかるバスを比較するのは無意味かもしれないが、今日日はそこまで価格競争が激しくなっているということにまず驚いたし、
- そもそもそんな値段で、バス会社はやっていけるのか?
という疑問もあった。さらに、それだけ安いってことは、
- さぞや窮屈な座席で、快適とは程遠い過酷な長旅を強いられるのだろう
とも想像した。そして最後に考えたのは、
- あれだけの長距離ドライブを、そんな値段でたった1人か2人の運転手に任せるのはコワイ
ということであった。
新幹線なら安全のためのさまざまな技術に守られているので、キチガイがテロ行為にでも及ばない限り、命を失うなんて想像さえできないが、長距離バスの場合はたったひとりの運転手のミスによって、簡単に命を奪われてしまうのである。
交代要員は、いざというとき意味が無かった
2012年4月に起きた「関越自動車道高速バス居眠り運転事故」では、交代要員がおらず、1人の運転手が長距離運行したことが問題になったと記憶している。
今回の軽井沢の事故では、「運転手は2人いた」という報道を耳にして、
(もうひとりの運転手は何やってたんだ?)
というのが最初の疑問だった。
生存者の証言によれば、「事故の直前には異常な運転が続いていた」らしい。そんな状態でも乗客はなかなか注意できないだろうが、交代要員の運転手なら、注意するなり、場合によっては運転を代わるなり、なぜできなかったのだろう?と思ったのだ。
この点については何も報道を確認していないので推測に過ぎないが、おそらく、もうひとりの運転手は眠っていたのだろう。関越道の事故を教訓にした「複数の運転手による運行」は、今回何の抑止力にもならなかったわけだ。
だが、そもそも交代要員は自分が運転するときには万全の状態でいる必要があるのだから、仕方のないことかもしれない。
運転手もある意味被害者だ
2016年1月17日(日)に放送されたテレビ朝日系列の「サンデースクランブル」で、黒鉄ヒロシが亡くなった運転手のことを「運転がヘタクソなんですよ」と罵っていた。
運転スキルに問題があった(かもしれない)ことは、事故の状況を見れば誰でもわかりそうなことだし、車両故障の可能性だってまだ残されている。
にもかかわらず、亡くなった運転手への非難なんて、ネット愚民による掲示板の書込みじゃあるまいし、少なくともテレビのコメンテーターが殊更に主張するようなことではない。
この人は「クイズダービー」の昔から(品のねえおっさんだなあ)とは思っていたが、死んでしまった人に対して、もうちょっと言葉が選べなかったのだろうか。
黒鉄ヒロシの「想像力の無さ」は問題外として、報道する側も運転手をまるで犯罪者のように扱うのはやめた方がいい。
彼らも命を落としただけでなく、“格安”長距離バスという「社会的システム」に翻弄された被害者なのだから。
不条理を「条理」に変えていくために
とは言え、亡くなった乗客のご家族はなかなかそんなふうには割り切れないだろう。テレビのインタビューに気丈に応じていた親御さんも何人か目にしたが、その内心を慮るといたたまれなくなる。
不条理なことが起きるのは世の常だ。
ただ、その不条理を受け入れられないのも、また人間なのだ。
大事なのは、「今後どうすべきか」である。
関越道の事故は、結局何の教訓にもならなかった。
今回の軽井沢の事故は、必ず教訓にしなければならない。
「自動運転」が遍くバス業界に普及するまでは、二度とこのような事故を起こしてはならない。
・・・ちょっと何だか熱血先生(死語) みたいになってしまったが、あれだけの前途ある若者たちを一度に失って何も変わらないのでは、(ただでさえ明るい話題の少ない)この国の未来は、本当に暗澹たるものになってしまう。
役人たちにやって欲しいこと
「悪徳業者」を特定するために、私たちに提供されている唯一の方法として、
というものがある。
ただ、「お役所仕事」の常で、このシステムがいまいち使い勝手が悪い。
業界によって管轄部署が違うからか、それとも単に開発を委託した先が違ったからなのか、「鉄道/船舶/航空」と「自動車関連」とで、なぜかインタフェースが違っている。
観光庁管轄の「旅行業関連」に至っては、検索機能さえ用意されていない(ネガティブ情報が、それ以外の情報と合わせて同じページにズラズラと並べてあるだけ(笑))。
そして最大の問題は、検索できる情報が古いことだ。
「自動車総合安全情報」の場合、「検索可能なデータは2015年11月まで」となっているため、今回事故を起こしたバス会社は「事故の2日前に行政処分を受けた」と報道されているが、その情報は当然ヒットしない。
今回の事故を受けて、これから長距離バスを利用する人たちは乗車の直前まで「ネガティブ情報」を検索するかもしれないが、それで得られるのは1ヶ月以上前の古い情報だけである。これでは、せっかくのシステムも片手落ちである。
国交省に勤めているお役人達にまずやって欲しいのは、
- ネガティブ情報は即日公開し、かつ検索可能なようにデータベース化する
- ネガティブ情報等検索システムをより使いやすく改善する
以上の2点である。
私たちができること
社会的システムを変える力を持たない私たちがまずできることは、“格安”と思われる長距離バスには、今後乗らないようにすることだ。
いささか極論ではあるが、上記のとおり「ネガティブ情報等検索システム」は万全ではなく、そもそも、悪徳業者が遍く行政処分されるわけでもないだろう。
では、「どのぐらいからが“格安”なのか」、まずは長距離バス業界の一大ブランドである「ジェイアールバス関東」「西日本ジェイアールバス *2」で「東京~大阪」間の料金を確認してみた。
「月(季節)」「平日/休日」「車両/座席のグレード」「早売りか否か」によってバラツキはあるが、概ね「5,000円台中盤~6,000円台中盤」が中心のようだ。やはり、冒頭に挙げた「東京~大阪 3,200円」や、注釈に書いた「同 2,000円」は、ちょっと安すぎる感がある。
念のため断っておくが、十把ヒト絡げに「安い=キケン」と言うつもりはない。
ただ、格安長距離バスは、行政も含めた業界全体の「管理体制のズサンさ」において、例えば航空業界におけるLCCのようには捉えにくいのも、また事実である。
よって「料金」を、判断基準にせざるを得ないと思う。
- まずは、相場に対して安すぎる料金のバス会社は利用しないこと
- ツアーを主催しているのが旅行会社で、バス会社がわからない場合は、同様に安すぎるツアーには参加しないこと
それが「安全をおざなりにするバス会社」を淘汰するために私たちができる、唯一の方法かもしれない。
どうしても、格安長距離バスに乗りたいのなら
最低限、守るべきことがある。
シートベルトの着用だ。
今回の軽井沢の事故で亡くなった人の多くは、飛ばされたときの衝撃で、頭や首に致命傷を負っていたということだ。
バスの場合、乗用車ほど耐衝撃性を考慮した車体構造になっていないので、横転時などにおけるシートベルトの“効果”が絶大だとも思えないが、少なくとも今回のようなケースでは、一定の効果はあると思われる。
長時間の乗車で、しかも決して快適とは言えない車内空間でシートベルトをし続けるのは“苦行”に近いとは思うが、「人間は頭部や頸部をヤラれたらヒトタマリもない」ということを、どんな場合であれ「クルマ」というジャンルで括られる移動体に乗るときには、肝に銘じるべきなのである。