スカイラインハイブリッドに試乗した(さよなら、スカイラインクーペ序章篇)

2018年1月14日(日) 、まいど御用達の神奈川日産(株)川崎元木店で「スカイラインハイブリッド」に試乗してきた。試乗するだけして「ハイさようなら」と言えるほどツラの皮がブ厚くない私にとって、「試乗する」ということはつまり「結婚を前提にお付き合いする」的なことである。

ただ、「結婚を前提とした相手」が現れても、「長年の古い恋人=スカイラインクーペ」との糸が切れてしまうことに、言葉では言い尽くせないセツナサを感じるのもまた、事実なのだ。



 

レクサスLCは目を疑うほど美しかった

先日、愛車スカイラインクーペに乗って横浜環状4号線を戸塚から泉区方面に向かって走っているとき、サイドミラー越しに何やらひどく妖艶なクルマが目に入った。実車を目にしたのは初めてだったが、それが「レクサスLC」であることはすぐにわかった。

しかも、ボディカラーは「ラディアントレッド コントラストレイヤリング(長い!)」。大きくスラントしたフロントウインドウの向こうに一瞬だけ見えたドライバーは老齢に近いおっさんだったが、よほど自分のビジュアルに自信があるか、周囲の視線などまったく気にならない世捨て人なのだろう。そうでなければ、あんなハデなクルマに乗ることはできない。

私の真横を滑るように、流れるように通過して右折車線に並んだそのリアセクションは、イタリアン・スーパーカーとじゅうぶん張り合えるほど幅広く、威圧感に満ちていた。「日本車のデザインもついにここまで来たか」なんてのはワリと昔から使い古された表現だが、万人が心の底からそう思えるクルマは、LCが初めてなんじゃないだろうか。

同じ日の帰り道、たまたま「レクサスRC」も見かけたのだが、そのクーペボディはまるで、凡庸なセダンのように見えた。

 

ヘタレ日産に「クーペのときめき」は取り戻せない

「トヨタにできて日産にできないことはない」

日産ファンがそんな強がりを言えたのは、いったい何十年前のことだったろうか。

ルノーとミツビシの助けを借りて、ようやく全世界での販売台数だけはトヨタと張り合えるまでにはなったらしいが、こと日本国内に限って言えば、日産とトヨタの格差は、故・星野仙一氏が監督になってくれる以前の阪神タイガースと讀賣巨人軍以上のものがある。つまり、「オハナシにならない」状態だ。

それでも私は、日産が「INFINITI Q60」を、「スカイラインクーペ」として発売してくれる日をずっと待った。待ち続けていた。

だがどうやら、電気自動車とそのインフラ整備にかかりきりの現在の日産には、 ジャーマンスリーを始めとした欧州車に感化され尽くしてしまった、日産のクーペになど見向きもしないこの国の「クルマにオカネを遣う人達」に向かって「日本に、クーペのときめきを。」と啖呵を切った10年前の気概は、とうに失われてしまったようだ。

「レクサスLC」は上述のとおりとても美しいが、デカすぎるし高過ぎる。あのサイズ(車幅)だと、普段使いには厳しい。1,300万円スタートの価格帯も、富裕層とまでは言わないが、高所得者(2018年度から所得税が6万5千円以上増税される人達)じゃないとムリがあるだろう。つまり、「クルマを2台以上保管できる土地を所有する程度のお金持ち」がターゲットのクルマである。

一方、2018年現在の「庶民のクーペ」というと、「トヨタ86スバルBRZ」が筆頭にあげられるが、庶民寄り/スポーツ寄りに寄せすぎた結果、所有欲を満たすようなクルマだとは私には思えない。

その中間を埋めるのが「INFINITI Q60≒次期スカイラインクーペ」であり、あのデザインであれば、数は少ないだろうが食指が動く人も絶対にいるはずなのだ。なぜ日産には、そのことがわからないのだろう。

そう言えば、日経ビジネスオンライン

インフィニティは高級ブランドとして、「Q60」というクーペを発表しました。そして実はこれ、国内でも“スカイラインクーペ”として販売される予定です。

などと、天下の日経ブランドを冠しながら真っ赤なウソを堂々と世間に流布したADフジノとかいう人物は、その後きちんと「お詫びと訂正」をしたのだろうか。 

 

クーペがダメならセダンがあるさ

というワケで「次期スカイラインクーペ」の登場に見切りを付けた頃、ヘタレ日産が何とかその名前を絶やさないように「INFINITI Q50」を国内向けにバッヂエンジニアリングしている素のスカイライン=セダンの方が急に気になりだした。

クーペとセダン、艶やかさでは比べるべくもないが、もともとはQ60に対するQ50で、兄弟車?みたいなもんである。クーペを国内で正規販売してくれないのであれば、セダンでガマンするしかない。

そこで、普段は軽カーやコンパクトカーやミニバンしか試乗車として置いていない、ファミリーユース一直線な神奈川日産(株)川崎元木店の営業さんにムリを言って、「スカイライン(ハイブリッド)」の試乗車を用意してもらった。
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ちなみに、クルマ好きにさえあまり知られていないと思うが、スカイラインは2017年12月にマイナーチェンジしている。

例の無資格検査問題によるゴタゴタが尾を引いているであろう日産に、つい先月マイナーチェンジしたばかりの個体を用意できるはずもない。よって試乗車はマイナーチェンジ前のいわゆる「前期型」だが、変わったのは外観と内装の一部だけなので、肝心の走りを体感するぶんには問題ないだろう。

 

スカイラインハイブリッドのプチインプレッション

「さっそく試乗に行きますか?」
神奈川日産(株)川崎元木店に到着するなり投げかけられた営業さんからの問いかけにフタつ返事で応じ、ダウンジャケットを着込んだままスカイラインハイブリッドに乗り込む。

シートに腰を落とすと、グッとケツが沈み込んだ。見た目はフラットなフツーのシートなのだが、低反発枕のような材質によってカラダがいい感じにフィットする。また、センターコンソールが高いせいか、囲まれ感が強い。ドライバーズ・シートの居心地は、じゅうぶん合格点である。

シートの位置を合わせてと・・・
「あれ?(パワー)シートのスイッチないッスよ?」
営業さんに思わず聞いてしまったが、実際はスカイラインクーペ (CKV36) よりもずいぶん前方にスイッチが付いているのだった。

ステアリングホイールの位置 *1 も合わせて、さあ出発!・・・ただ、コミコミ600万円を超える高級車にもかかわらず、足踏み式のパーキングブレーキには若干萎える。インプレッサでさえ電動なのに。何やってんだよ日産は。

ハイブリッドゆえ、ブレーキペダルから足を離すと、スルスルと音もなく動き出す。国道15号に出る時に少しアクセルペダルを踏み込んだら、V6らしい低く乾いた音が微かに聞こえた。

クルマの流れに乗ってから、いちばん気になっていたダイレクトアダプティブステアリング (DAS) の感触を試す。ステアリングホイールを左右に軽く動かすだけで、CKV36よりも明らかに機敏に車体が左右に振れる。これはまったく味わったことのない、不思議な感覚だ。

自動車評論家諸氏にはボロクソに言われることの多いDASだが、わずか20分、それなりに混雑している休日の国道15号を数km流すだけの試乗では、シロートの私には違和感は感じられなかった。むしろ、「ハンドリングがラクだなあ」という好印象しか残らなかったが、もっともその長所短所が現れるであろうワインディングを走ったときにどう感じるかはわからない。

CKV36より劣っているのは、

  • ハイブリッド特有のクセのあるブレーキタッチと
  • 前方の見切りの悪さ *2

ぐらいで、

  • 明らかにカッチリとした車体の剛性感
  • モーターを上手に活かしたパワー感
  • 機敏かつ軽快なハンドリング

などなど、あらゆる基本性能は7年という時間の経過 *3 をじゅうぶん感じられるほどに進化していた。
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試乗を終えた後、以前エクストレイルのリモコンオートバックドアを説明してくれた若い営業さんが、私のスカイラインクーペの隣に現行スカイラインを並べてくれた。私にとっては、いろいろな意味でとても貴重なツーショットである。

ささやかな心遣いが、とてもうれしかった。

 

やっぱりクーペが好き

商談を終えて駐車場に出て、傾きかけた陽射しの中に佇む自分のスカイラインクーペを目にしたとき、
(やっぱクーペの方がカッコいいよなあ)
としみじみ思ってしまった。

私のようなシガナイ庶民が所有できる価格帯で、しかも発売から10年以上が経過しているというのに、これだけの艶やかさをキープしているクルマを私は他に知らない。
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誰もそんな評価はしてくれないからムキになって書くが、スカイラインクーペ (CKV36) は稀代の名車である。

複数台のクルマを所有できるだけの土地と財力がもし私にあったなら、ずっと手元に置いておきたかった。

(つづく)

 

*1:ステアリングホイールのチルト/テレスコスイッチはCKV36とまったく同じ位置にある

*2:CKV36は、ヘッドライト付近の盛り上がりによって前方の見切りがよくわかるのだ

*3:スカイラインクーペの登場が2007年、スカイラインハイブリッドは2014年