2年ぶりの伊豆半島一周

2021年11月某日、2年ぶりに伊豆半島を一周してきた。

2020年、たった一度のツーリング

2020年は、結局(ほぼ)どこにも行かなかった。この国ではロックダウンがあったワケではないので、行“け”なかったのではなく行“か”なかった。4月以降は出社の必要がなくなったのでインドア志向が染みついてしまったし、「他県ナンバーを見ると危害を加えてくるキチガイがいる」という報道を見てさらに気力を喪失したのだ。

だが、老い先短い身としては、このままどこにも行かずにひとつ歳をとってしまうのは非常にもったいない。来年には、オートバイに乗れないカラダになってしまうかもしれない。

そう思い詰めた2020年9月30日、ようやく重い腰を上げて、その腰を愛車ブルバードM109Rに下ろした……午後の1時半に。

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国道414号・静岡県下田市箕作あたり (2020年9月30日)

熱海ビーチラインや、M109R乗りは必ず通らなければならない川奈のワキ道(静岡県道“109”号)など、東伊豆の海岸線をいつもどおり律儀にトレースして、南伊豆の最初のマイルストーンである下田駅前に着いたのが午後4時頃。

9月末の日の入りは午後5時半頃なので、このまま海岸線をトレースし続けると、伊豆半島一周のハイライトである西伊豆のグネグネ道にたどり着く頃には辺りは真っ暗闇になってしまうだろう。

そう気づいてようやく半島一周はあきらめ、下田駅前の交差点を右折して十数年ぶりに中伊豆に入った。

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「道の駅 天城越え」はトイレにしか人がいなかった(2020年9月30日)

まだ9月だというのに、中伊豆は寒かった。
「道の駅 天城越え」は、悲しくなるほどに閑散としていた。
海のまったく見えない伊豆半島は、私にとっては何の価値もなかった。

2020年にたった一度だけ県外に出かけた伊豆半島“半周”は、身も心も寒い、何の収穫もないツーリングであった。

 

そして2021年

去年の反省を活かして、11月にして今年最初のツーリングは午前中に拙宅を出た……午前11時少し前に。

習慣というのは実に恐ろしいもので、毎日出社する必要がなくなってからは早起きがまったくできなくなってしまった。それに加えて、著しいジジイ化のせいか無理に早起きすると体調が悪くなってしまう。オートバイに乗るどころではなくなってしまう。

愛車M109Rに跨がるのは、8月にユーザー車検に行って以来、実に約3カ月ぶりであった。

toshueno.hatenablog.com

10月には「県外に出ちゃダメよ」という“大義名分”はなくなったが、11月下旬のいよいよ冬が始まるって頃まで一度もオートバイに乗らなかったのは、いろいろあって生きる気力がなくなっていたからだろうか。

 

仲良きことは美しきかな

午後2時45分頃、奥石廊崎にたどり着いた。

平日ということでクルマが1台しかいなかったので、数年ぶりに駿河湾に突き出たこの駐車場にオートバイを駐めた……ら、その直後からウヨウヨと実に4台ものクルマがやってきた。いわゆる「引き寄せの法則」である。何もうれしくはない。

でも最初から駐まっていたメルセデスベンツ・CLAの、そのはしゃぎっぷりが相当キモチ悪いおっさん3人組以外は、みな写真を数枚撮ってそそくさと駐車場を離れていった。

何度か新しくなってはすぐに寂れてしまう売店が1つしかない、その“絶景”以外は特におもしろくも何ともないスポットだからなのだが、人がいなくてトイレと自販機があるところこそ、私にとって最高の休憩場所なのだ。

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奥石廊崎で既に陽が傾いていた

Coke ON対応自販機(ナイス!)で実質タダ(楽天ポイント)でホットコーヒーを買って15分ほど休憩してから、Cape Ai-Aiを後にした。

結局、CLAだけが最後まで駐車場に残っていた。おっさん3人組は近くのユウスゲ公園まで歩いて移動して、丘の上にある鐘を鳴らしてはずっとはしゃぎ続けていた(無論姿は見えないが、鐘の音とバカ笑いが聞こえてきた)……。

って、どんだけ仲いいんだよ ('-'*)

 

寒いわケツは痛いわクラッチは重いわ

仲ムツまじいおっさんトリオとは対極の、いつもどおりのたったひとりのツーリングは続く。

他人なんてウットウしいだけのヤツは、孤独でいればいい。
誰かといっしょじゃないと自分が保てないヤツは、迎合すればいい。
人はただ、それぞれに生きればいい。

問題は、「人間は生きている」という至極当たり前のことだ。

生きているから、風が冷たく感じる。
生きているから、ケツが痛くなる。
生きているから、クラッチが重い……。

寒くて萎えるのと左手が疲れるのは昔から変わらないが、伊豆半島一周ごときで耐えられないほどケツが痛くなったのは初めてだった。トシをとってケツ肉の弾力がなくなったからなのか、“旧車”M109Rのシートがヘタったからなのか、まあその両方なのだろう。

 

オレンジの海

(ただただ疲れただけで、あんまり楽しくもなかったなあ……)

何の救いもない思いに囚われながら伊豆半島一周も終わりにさしかかった頃、戸田港あたりで空がほんのりとしたオレンジ色に染まってきた。

夕暮れの戸田港

(ああ、そういえばこのぐらいの時間に来ると、夕陽が見られるんだったなあ……)

伊豆半島に来るのもずいぶん久しぶりで、あまつさえここのところ外に出なさすぎて、どんな景色が見られるのか、それどころかこの世界に「夕焼け」というシーンがあることさえも忘れていたのだ。

そんなヒキコモラーの狭隘な視野に、今度は強烈なオレンジ色が飛び込んできた。そこはまさに、戸田港から少し先に行った「夕映えの丘」であった。

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この景色が見られただけで、もうそれでじゅうぶんだった

水平線のオレンジ色に
約束ばかりが溶けて行く

- キャンディーズ 「オレンジの海」

ミキの、か細いソプラノが聴こえてきた。夕景の海辺でチョメチョメする女の心情描写をEマイナーの暗い響きに乗せた、みんな大好きキャンディーズのあの名曲である。

勃たなくなって久しい私にとって、愛だの恋だのはすっかり遠くなってしまったけれど、それでも夕焼けは美しい。
そんな感情がまだ残っていたと気づけただけで、もうこの日はじゅうぶんだった。