交通裁判所で法の裁きを受ける
前回の記事と時系列が前後するが、健康診断の前日に保土ケ谷簡易裁判所 (通称「交通裁判所」) で法の裁きを受けてきた。日曜の早朝に気持ち良くクルマを走らせていただけなのに、まったくとんだ不相応な報いを受けたものだが、それがこの社会のシステムである。
不幸のハガキが届く
数々の違反 (その9割が速度違反) をしてきた私ではあるが、一発免停は (たぶん) 2度目である。と言っても、1度目はまだ20代前半、いまから25年以上も前のことなので、ほとんど何も覚えていない。実は一発免停だったかどうかも覚えていないのだが、簡易裁判所に呼び出された記憶だけは確かにあるので、まあそうだったのかなあと思う。
覚えているのは、当時住んでいた練馬区関町南から、遠路はるばる墨田区にある簡易裁判所までVFR400Zで行ったことと、その簡易裁判所のぼんやりとした・・・小部屋にガラスのはめ込まれた木製の衝立があって、その奥の机の向こう側に検察官がいて・・・といった情景だけである。
とは言え、一発免停の場合は簡易裁判所に行く必要があることは知識として知っていたし、取締りの現場で、赤切符に記載された「31km/h超過」の文字を見てすぐに「めんてえぇ~っ!?」と叫んだのも、知識として知っていたからである。
が、「赤切符の右端に記載された『出頭期限:10月26日』までに簡易裁判所に出頭しなければならない」という知識はなかったし、そもそもその文字にまったく気づいていなかった *1。また、現場で取締りに当たった栄警察署の吉野綾巡査も、それについて何ら説明しなかった *2。
だから(このまま、何の通知も来なきゃいいなあ)なんてノンキに構えていたのだが、11月8日(火)、拙宅の小さなポストに一通のハガキが届いていた。モノトーンでまとめられた、見るからに不幸を呼び込みそうなそのハガキには、
「おまえ出頭期限まで来なかっただろ、今すぐ簡易裁判所まで来い!(※超意訳)」
慇懃無礼に、そう書かれていた。
霧雨そぼ降る金曜日、保土ケ谷の住宅地へ
11月11日(金)、会社を抜け出して横浜へ向かう。免停講習の日のピーカン (死語) とは打って変わって、この日は予報に反して霧雨がずっと降り続けていた。おまけにクソ寒い。まるでこの後の、私の財布の中身を暗示しているようだ。
保土ケ谷簡易裁判所へは、横浜駅西口から相鉄バスに乗って行く。日中は1時間に4本、つまり15分おきにしか来ないのでのんびり待つことを覚悟していたが、バス停に着くと同時にバスが滑り込んできた。ツイてる。でもこの程度のラッキーで、ヒト月半前に受けたアンラッキーによって負った傷心を癒やすことはできない。
日中だから空いてるだろうと思って2人掛け座席の最前列に座ったら、いきなりフィリピーナに横に座られる。(ん?)
住宅街に入ってフィリピーナが降りたと思ったら、それと入れ替わるように、近くに立っていた大学生風の若者に座られる。(んん??)
横の視界に入る限りでは隣の座席も女性が1人しか座っていないはずなのに、なぜ狭い思いをしてまで、ガタイのイイ、全身から不機嫌オーラを発しているおっさんの方に座るのだろう。
よくよく見たら、隣の中年女はレジ袋を堂々と横に置いて、2人掛け座席にひとり悠然と座っていた。タコが。普段なら説教のひとつでもカマすところだが、そんなテンションでもないので、一瞥して降りた。バスは正しく乗りましょう。
「交通裁判所」というわかりやすい名前のバス停で降りると、そこには裁判所でなく「陸上自衛隊横浜駐屯地」があった。裁判所は、その隅に追いやられていた。
それにしても、なんでこんな不便極まりない場所にあるのだろう。駅から歩ける距離に設置してあげようという「親心」はないのだろうか *3。
記憶力自慢の警察官
まず、受付にハガキと赤切符を提出する。
ほどなく名前を呼ばれ、「警察官調室」に入る。
オールウッドのチープレトロなスピーカーといい、「昨日の死亡重大事故」と手書きされた黒板といい、昭和の雰囲気を色濃く残すこの部屋の中では、銀行の窓口のように簡素な仕切りで複数に区切られた狭いスペースで、デスクを隔てて私服警官と対座する。
全然空いているのだから1つ、2つ間を空ければいいものを、なぜか既に取調べを受けていたじいさんの隣に座らされる。そのじいさんは取締りに不満タラタラらしく、ああだこうだと自分の主張を大声でまくし立て、それを応対の警察官が必死に説得している。うるさい。こっちの話が聞こえない。ほんっと気が利かねえわ。
神妙な面持ちでこちらを見ている警察官は、50代後半ぐらいだろうか。大魔神を多少ソフトにしたような感じの、ザ・警察官といった風貌をしている。そのイカツい面構えに反して、物腰は柔らかだ。違反現場の説明を簡単に受けた後に、こんなやり取りをした。
警「なんで出頭期限まで来なかったんですか?」
私「知らなかったからです。現場でそんな説明なかったですよ」
警「教習所で免許取ったんですよね?」
私「ええ、はい」
警「説明がなかったとしても、教習所でちゃんと習いますよ、私、免許取ったの昭和ゴジュウ・・・ナン年ですけど、ちゃんとまだ覚えてますから」
私「はあ・・・」
そんなん知らねえよ。とりあえず、あなたの記憶力が非常に優れていることだけはわかった。
満面の笑みの検察官
その後、別の部屋に行くように指示される。今度は「検察官による取調べ」だそうだ。同じフロアのいちばん奥にある検察官の部屋の前には、いかにも「オレ遊んでます」風の金髪の若者と、いつの間にか話終わっていた先述のじいさんが先客として待っていた *4。
待つこと2、3分。なぜかいちばん最初に私の名前が呼ばれる。
これまた50代後半と思しき、「相撲部屋の親方やってます」と自己紹介されても違和感がないビジュアルの検察官は、自ら私を呼びに来たときから、終始満面に笑みを浮かべていた。思わず、こちらも笑ってしまうぐらいに。「笑顔効果」で場違いに和やかな空気が漂う中、警察官より若干詳しく違反現場の説明を受ける。
検「判決に不服がある場合は、訴えることもできますので」
私「でも訴えても勝てませんよね?」
検「そうですね~、裁判になったら、レーダーを作っている会社の開発者とか、現場で測定した警察官とかが出てきて (出廷して)、『測定した値が正しいこと』を主張してきますので、それを覆さないといけませんねえ」
私「そんなの絶対ムリですよね(笑)、こっちはドシロートなのに」
検「まあ、そうですねえ(笑)」
私「スピード出したのって、ほんと一瞬だと思うんですよね、停められたとき、なんで停められたのかまったくわかんなかったですから」
検「ん~そうでしょうねえ」
私「覆面とかパトカーとかだと、『200メートル追尾の原則』とかあるじゃないですか、でもネズミ捕りって一瞬のスピードで捕まえますよね、おかしくないですか?」
検「そうですね~でも、200メートルに渡ってズラッとレーダー並べたら、お金かかっちゃって、税金いくらあっても足りなくなりますよねえ(笑)」
私「まあそうですね(笑)」
即興漫才か。200メートルに渡って「測定班 (現任係)」がズラリと並んでいる画を想像して、思わず吹き出してしまった。
ま、天下の法律家を、私のように口下手な落ちこぼれサラリーマンが言い負かせられるはずもない。
私「できるだけ安くしてください、お願いします」
検「そうですね~でも、『この場合はいくら』って、だいたい決まってますからねえ(笑)」
そりゃそーだソバソーダ。
こんな場所には、大概の人間は不愉快極まりない心持ちでやって来るだろう。この検察官がもし、それを少しでも和らげようとして、満面の笑みを浮かべながら優しく柔らかく応対するように努めているのであれば、そのプロ根性にはグウの音も出ない。笑顔の向こう側で完璧なまでに叩きのめされた私は、どこかさわやかな敗北感を抱きつつ、“法廷”を出たのだった。
殺風景な部屋で審判を待つ
次に指示された「道交待合室」には、この写真▼に写っている4人と、写真には写っていないが、私が即興漫才をしている間にさっさと“裁判”を終えていた金髪の若者の計5人が既に審判を待っていた。
どの人も、どんよりした暗いオーラを身にまとっている。が、気にすることはない。君たちはまだ若い。私のようにおっさんになってからこんな場所に来るのは、本当に恥ずかしいが。
ここでの待ち時間がいちばん長かった。20分ほど待たされた。「5人待ち」だったとは言え、検察官が言ったとおり「“相場”が決まっている」のであれば、機械的にサクサク金額を決めればいいのに。
はたして、私に下された処分は「罰金 60,000円」であった。
「できるだけ安くしてください」という私の切なる願いは、検察官には届かなかったようだ。やはりあの満面の笑みの下には、冷徹無慈悲な法律家としての顔が隠れているのだろう。
ああロクマンエン
審判が下ると、「納付窓口」で罰金を払う。
ほんの少しの待ち時間、武井咲の美しい笑顔がかえって神経を逆ナデする。もっとアグリーなビジュアルの女性をモデルにした方が、ツッコミができて傷ついた心も救われるのに。
それにしても6万円である。コナカ・アウトレットの安物スーツなら、4着買える。
長年定番としているランズエンドのワイシャツなら、7~8枚は買える。
今年こそ買おうと思っていたRSタイチの「電熱ウェアシリーズ (e-HEAT)」も、最安値のショップならフルセット (ジャケット+グローブ+車載電源セット) 揃えられる。
PS4 Proだって買える。
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ああ6万円。ただフツーに、トラックの後ろに付いて“流していた”だけなのに。
警察のウラガネとなる反則金と違って、罰金は「一般財源」として国庫に入ると聞く。お国のために捧げた私の6万円が、せめて、浮かれ気分で大金をムダにする亡国イベント=トーキョーオリンピックのためではなく、被災地復興のために遣われることを切に願う。