2017年のゴールデンウィークに行った、四国・九州ツーリングの2日目(2017年4月29日)。まずは淡路島での朝の様子と、徳島の一大観光スポット=大鳴門橋周辺でのあれこれを綴る。
5月になるというのに
「寒い」「さぶっ」「さぁみぃ~」
今年の冬は、いったい何度これらの言葉を発しただろう。50年近く生きてきて、いちばん多く発した冬であっただろうことは間違いない。加齢や、酒をヤメて一気に体重が落ちた(=贅肉が減った)ことや、毎朝毎晩駅までスクーターで通勤したこともあって、例年以上に寒さが骨身に応えた冬であった。そして、4月も終わろうというのに、北海道に行ったわけでもないのに、淡路島のキャンプ場でこの言葉を発することになるとは思わなかった。
寒さで最初に目が覚めたのは、午前2時頃だっただろうか。思わず、マミー型のシュラフのファスナーを閉めきって、ペラペラの生地で全身を包み込んだ。「使用可能温度:10℃(※“マイナス”10℃ではない)」という安物のシュラフとは言え、その中にスッポリ入るのと入らないのとでは、大きな差がある。この体制で眠りに入ろうとしたのは、2013年11月の山形以来であった。
シュラフに潜り込んだことでいくぶん寒さはヤワらいだが、その後も何度も目が覚めた。眠りたいと思っても、眠りには入れないのはなぜだろう。使い途のないムダな繊細さを持ち合わせた自分の性質が、とても恨めしいと思う。
どれだけ眠れたのか、どれだけ眠れなかったのか判然としないまま、普段と同じ午前5時5分に完全に目が覚めた。が、少しだけ剥き出しになった顔面で感じる空気の冷たさに、シュラフから這い出る気にならない。こういう時、拙宅にいればエアコンのリモコンに手を伸ばすのだが、悲しいかなテントにエアコンは付いてない。結局目が覚めてから30分以上、シュラフの中でモゾモゾしていたのだった。
吹上浜キャンプ場の朝
テントから這い出たときには、午前5時40分を過ぎていただろうか。さすが皆さんおっさんだからか、ほとんどの人が既にテントから出てナニガシかの行動を始めていた。焚火をしている人、顔を洗っている人、撤収作業をしている人・・・。
この日の宿泊者は、3人グループが1組いただけで私を含めたあとの5人はすべてソロライダー。群れるわけでもなく、ただ静かに思い思いの時間を過ごしていた。すばらしい。やっぱりオートバイ乗りはこうじゃなくちゃね。
歯ブラシを咥えたまま、サイトすぐ傍の海辺を散歩する。すばらしい、新しい朝だ。
写真▲のタイプスタンプは午前5時52分。あと30分早くテントから這い出ていれば、もっと美しい朝焼けが見られただろうが、まあしかたない。だって寒かったんだもん。
管理棟▼。
炊事場▼。
温水シャワー室内▼。
建物自体は外装も内装もお世辞にもキレイとは言えないが、設置されている器具類は新しめだった。私はまったく使用していないので、ちゃんとお湯が出るかどうかはわからない。
ゴミ捨て場▼。
驚いたのは、(写真には写っていないが)電池類を捨てるカゴまで用意されたこと。キャンプ場は数あれど、そんな所はなかなかないはずだ。
私はいつもどおり一晩だけテントを張って寝ただけだが、長期滞在には最適なキャンプ場だろう(ただし関空を行き来する飛行機の音だけは興醒めだが)。ちなみに2泊目からは宿泊料金が半額になるそうだ。
何もない朝
サクッと撤収を終え、淡路島の田舎道を走り出す。
ここには何もない。何もないが、すべてが輝いて見える。この輝きの中を走るために、私は旅に出る。例によってこんな写真では何も伝わらないだろうが、私はこの場所に来られた喜びをただ噛みしめていた。この時の気持ちを完璧に言葉にできたら、そして他の誰かに伝えられたら、どんなにすばらしいだろうと思う。
気分良く信号待ちをしていたら、なにやら劇画チックな「飛び出し坊や」が目に入る。
こんなモノにも地味に笑いを求めるあたりが、さすがは関西人といったところだろうか。
“ウズ”が見たい
大鳴門橋を渡って四国に上陸する。
オートバイで四国に来たのは初めてだというのに、相変わらずのノープラン。決めていたのは、いつもと同じように「海沿いの道をただひたすら走る」ただそれだけである。が、こんなに立派な橋を渡ると、どうしてもその姿を写真に収めたくなる。
基本的に有料の駐車場には入らない主義なのだが、しかたない。200円を支払って鳴門公園第1駐車場に入ると、まだ午前8時を少しまわったばかりなのに4台分のオートバイ専用デフォルト駐車スペースは既に埋まっていて、何か中途半端な、「ここに置いたらジャマなんじゃねえの?」的な場所に誘導される。吹上浜キャンプ場にいたBMW R1200RTと、同じタイミングでキャンプ場を出た3人組のマシンがその駐車スペースに駐まっていた。私は淡路島で廻り道をして、思いつきで訪れたわけだが、この人達はハナから計画していたのだろう。
まあいい。淡路島のナニゲない朝の風景も、劇画チックな飛び出し坊やも、この人達は見ていないだろうから。
駐車場から階段を上がって橋が見渡せそうな施設の方に歩いて行くと、仮設テントでチケットらしきモノを売っている。なんだろう。橋を見せるのにカネをとるのだろうか。ここでようやく、「渦潮」がここ徳島県の一大観光資源であることに気づく。おお、そう言えばそうだった。それはぜひ見てみたいし、ブログのネタ的にも格好の材料だ。
そこで「売り子」である30代男性の説明を聞いたのだが、なんかよくわからなかったので、いちばん安いチケットを710円で購入。結論から先に言うと、カネを払わなくても大鳴門橋も渦潮も見ることはできる。まあ当然っちゃ当然なのだが、こういう「観光地」には滅多に来ないので、どうも勝手がよくわからない。
食事処が軒を並べる通りを抜け、遊歩道を歩いて行くと「お茶園展望台」がある。もちろんココで半券を切られることはない。タダである。そこから望む大鳴門橋は、なかなかの圧巻であった。
が、“ウズ”らしきモノがまったくない。(んん?ココじゃねえのかなあ??)と頭の中がハテナマークでいっぱいなるが、展望台に設置してある説明板を見ると、渦潮発生ポイントはココ▼で間違いないようだ。
(なんだよ・・・なんかよくわかんねえけど、カネ払って損したな・・・)
信じられないことに、この時点ではまだ、さっき支払った710円が何の料金だったのかまったくわかっていなかったのだ。
日本人ならやっぱり焼き魚定食
この旅では、ひとつ決めていたことがある。「できるだけコンビニ飯は食べない」ということである。ある人達とツーリングの話をしたとき、「ツーリング先でのメシはほとんどコンビニ」と言ったら、異口同音に「もったいない!」と責められたからだ。ま、「異口同音」って言っても、レッドバロン戸塚の工場長と、会社の某プロジェクトで少しだけ話をしたオートバイ乗り(♀) のふたりだけなんだけど。
そんなわけでこの日の朝は、お茶園展望台にほど近い、「渦見茶屋」に入る。
土産物屋の奥が食事スペースになっている。店内は狭いが、朝8時半ということで貸切状態。
普段から昼飯は食べないので、ツーリング先でも朝と夜に食事したいのだが、夜はともかく朝早くからやっている飲食店っていうのは(ファーストフードとかファミレスを除いて)なかなかない。そこでいつも思うのだが、道の駅の食事処って、なんでもっと朝早くから営業しないのだろうか。だから、こういう店はありがたいのだ。
「渦見茶屋」の名に恥じず、窓際の席からは大鳴門橋と渦潮ポイントを望むことができる。
店のおかみさんによると、この日は午前8時少し前、つまり私が駐車場に入る直前が渦のピークだったらしい。なんだよ・・・淡路島でミチクサしてる場合じゃなかった。ってことは、キャンプ場でいっしょだった“仲間”達は、きっと渦を見たのだろう。やっぱり計画的に旅をする人達の方がいい思いをするのか・・・。
おかみさんによると、次に渦が発生する時機は14時過ぎになると言う。こんな所で半日も過ごす気はさらさらない。もともと観光スポットには縁がないのだ、あきらめよう。
ハマチの焼き魚定食。この辺りの名産品だという「すだち ぽんず」でいただく。
店のご主人に「ハマチとスズキ、どちらにしますか?」と聞かれて10秒ほど悩み、ハマチを選択したら、なんとカマ焼きであった。鯛飯もおいしかった。前日の鶏南蛮(的な食べ物)は最悪(ゼロ)だったが、この朝食は最高(★★★)だった。
「渦の道」を延々と歩く
渦見茶屋でハマチが焼き上がるのを待っている間、受け取ったチケットと、店のおかみさんにもらった「大鳴門橋周辺観光マップ」を見てようやく理解した。この710円のチケットは、「渦の道」と称する大鳴門橋の下に設けられた遊歩道に入るヤツと、「エスカヒル鳴門」という「東洋一(自称)のエスカレーター」を上るヤツがセットになっていたのだ。
← 半券が上下に付いていた
渦潮も見られないということですっかり興味をなくしていたのだが、せっかく大枚710円も支払ったので、まずは「渦の道」に行くことにする。が、入口がわからずに第2駐車場の方まで降りてしまい、そこでガードマンのカッコをした太ったおばさんに道を聞いて、さっき下りたばかりの階段をまた上って・・・。
ようやく入口まで辿り着く。
ここで初めてチケットを買う人が多くいる中、私は“前売券”を持っていたので得意ゲに“改札”をスルーして中に入る。
結局、渦潮を見ることは終始できなかったので、この「フレームワーク」を見たときがいちばん興奮した。
Wikipediaによると、この部分は鉄道を通せる構造になっているそうだ。
ここまでも結構歩いてきたのに、さらに「ここから400m歩け」と言う。
(まじか・・・これ歩くのか・・・)
この途方もない長さと、いちばん奥の方から聞こえてくる喧噪に完全に萎えたが、「せっかくカネを払ったんだから」という思いだけを心の支えにして、トボトボと歩き出す。
通路上のところどころに強化ガラスが埋め込まれていて、海面を望めるようになっている。
ガラスは絶対に割れないとわかっているのに、この上に乗るとこの上ない恐怖を感じてしまうのはなぜなんだろう。脳科学的には、いったいどういったメカニズムなんだろうか。
ようやく展望室にたどり着く。ちょうど人が入れ替わったタイミングだったのか、恐れていたほどの混雑はなかった(この写真▼には写っていないが、実際には10人前後の人がいた)。
「展望室」と言っても、これと言って特におもしろい仕掛けは何もなかったが、床面のガラスだけは大盤振る舞いであった。
大盤振る舞いはいいのだが、渦潮がなければただの「海面」である。特におもしろくはない。そんな冷めた思いで眺めていたら、妙にはしゃいで、このガラスの上に寝そべって自撮り棒で写真を撮っているカップルがいた。なるほど、そういう使い方もあるのか・・・おっさんがひとりで同じマネをしたら、相当キモチ悪いと思うが。
というわけで結論・・・「渦の道」のたいそう立派なホームページのトップに「本日のうずしおベストタイム(笑)」と明記されているように、ちゃんと時間を見計らって訪れないと、ココでの「成功体験」は得られないであろう。
東洋一(自称)のエスカレーターで萎える
さて、完全に飽きてはいたのだが、「せっかくカネを払ったんだから」 という思いに引きズラれて、今度は「エスカヒル鳴門」に向かう。
「渦の道」には真新しさを感じたが、この施設のクタビレ感はなかなかのものである。
エスカヒル鳴門のチケットを見ると、「東洋一のエスカレーター」とある。
(そんなに長いかなあ?りんかい線大井町駅のエスカレーターの方が長くない?)
と現地では思ったので、いちおう調べてみた。
- エスカヒル鳴門・・・長さ68m、高低差34m
- りんかい線大井町駅・・・長さ44m、高低差不明(地下2階~地上2階)
なんと、エスカヒル鳴門の圧勝であった。大井町駅のヤツは壁に囲まれた開放感のまったくない空間で、しかも私の場合は仕事の行き帰りという楽しくも何ともない時間に乗るので、長く感じるのだろう。
ちなみに日本一は、香川県の「NEWレオマワールド」とかいう遊園地にあるエスカレーターらしい(長さ96m、高低差42m)。東洋一はおろか、日本一でさえない。デザインやフォントからして相当古い時代に作られたチケットだと思われるが、あえて訂正しないのは、お隣・香川県に対する妬み嫉みもあるのだろうか。
なお、これを調べるに当たってりんかい線大井町駅のエスカレーターを「日本一」と評しているサイトをいくつか見つけたが、視野が狭すぎる。「東京より日本は広い(©夏目漱石)」のだ。
テッペンまで上ると、お茶園展望台とは逆サイドから大鳴門橋を望むことができる。
「屋上パノラマ展望台」 なんてタイソウなネーミングだが、要はただの「ビルの屋上」である。それを知ってか知らずか、ここを訪れる人は非常に少なかった。
そんなビルの屋上の反対側から望めるのは、鳴門公園第1駐車場と、鳴門市方面。
「東洋一(自称)のエスカレーター」で地上に降りながら思った。
(カネ払う必要、まったくなかったなあ)
食事をしたせいもあるが、実に2時間もこの場所に留まっていた。「とにかく移動すること」に重きを置く私のツーリングでは、異例の長さである。慣れないことは、するもんじゃない。この長時間の滞在が、この日の旅程を大幅に狂わせることになる・・・あ、もともと「旅程」なんてものはないのだが、感覚的な、「まさにこれがツーリングだよね」的な何かを、この日はほとんど得ることができなかったのだ。
(つづく)