「ふくしまの窓から」が終わってしまう

福島県在住であるとか出身であるとか、同県にゆかりのある人しか興味はないだろうが、とある有用な福島ローカル・サービスがこの3月いっぱいで終わってしまう。



 

突然の悲しい知らせ

(坂下は今日も雪降ってんのかな?)
2月某日、そんなことを思いながらブラウザのブックマークで「ふくしまの窓から」を選択すると、画面に表示されたページの様子が何かいつもと違っていた。

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(画像出典:ふくしまの窓から | 福島 | NTT東日本)

【重要】

「ふくしまの窓から」終了のお知らせ

平成15年4月より提供してまいりました「ふくしまの窓から」は平成29年3月31日17:00をもって終了させていただきます。

(えーっ!?ウソだろ!?)
何の前触れもなく、突然切り出された別れに、私はただ狼狽するだけであった。

 

「ふくしまの窓から」とは

ふくしまの窓から」とは、NTT東日本・福島支店がプロデュースしている福島ローカルのライブカメラ・サイトである。県内各所に配置されたカメラをクリックひとつで切り替えて、その土地土地の様子をライブ映像で確認することができる。

2017年3月現在、カメラの数と場所は以下のとおり。

  • 会津地方:5箇所 (JR会津若松駅、鶴ヶ城、裏磐梯、喜多方、会津坂下)
  • 中通り地方:9箇所 (信夫山、福島駅東口、福島駅西口、福島競馬場、花見山、四季の里、霞ヶ城公園、須賀川、白河)
  • 浜通り地方:5箇所 (相馬、富岡、いわき、いわき湯本、いわき・ら・ら・ミュウ)

中通り地方、特に福島市内に6つものカメラが集中しているのは、管理運営しているNTT東日本・福島支店がメンテナンスしやすいからだと思われる。

また、「松川浦大橋」を眺望することのできる「相馬」は、メンテナンス中とやらで2017年2月から3月6日現在に至るまで配信停止中である。サービス終了まであと残りわずか。松川浦大橋の雄姿を見ることができないまま、サービスは終わってしまうのだろうか。
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(▲2016年4月16日 現地にて撮影)

思い出の地のひとつである相馬の様子が見られないのは甚だ残念だが、これだけの数のライブカメラを県内全域に渡って配置し、かつ一般に公開しているサイトはなかなかないと思う。

ただしひとつ大きな欠点があって、映像(動画)が「Microsoft Silverlight」という、もはやマイナーなプラットフォーム上で動作するのだ。だから、AndroidやiOS系はもちろんのこと、Windowsであっても (自社製品のくせに) MS EdgeやGoogle Chromeはダメで、ライブ映像を楽しめるのは「Windows+InternetExplorerまたはFirefox」という、至極限定された環境のみである。

 

「ふくしまの窓から」オススメライブ映像3選

ここでは、私の独断と偏見によるオススメのライブ映像を紹介する。なお、上述のとおりMS Silverlightをプラットフォームとしているため、YouTube上の動画のように「ワンクリックで動画が再生される」的な仕組みは用意されていない。よって掲載した画像はいずれも2017年3月5日(日)の午後に取った画面ショット (ただの静止画) である。

裏磐梯

会津には珍しい高級リゾートホテル「裏磐梯高原ホテル」 にカメラが据え付けられた「裏磐梯」は、日本列島が縦に長いことを実感させてくれる貴重なライブカメラである。
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この日(3月5日)▲はたまたま晴れていたが、冬場は「ドカ雪」あるいは「猛吹雪」がデフォルトである。拙宅のある横浜 (戸塚だけど) が快晴の時にこのライブカメラ映像を見て、たかだか300km程しか離れていない場所とのあまりの天候の違いに驚いて楽しんでいる。

ちなみに、晩夏の時季はこんな感じ▼。
f:id:ToshUeno:20030906075812j:plain(▲2003年9月6日 ホテルの一室から、今は亡きミノルタのコンデジで撮影)

春から秋にかけては、この湖畔で思い思いにくつろぐお金持ち達の様子を観察することもできる・・・いや、「できた」。今年、この湖畔の雪が融ける頃には、もうこのライブカメラの映像を見ることはできないのだから。

JR会津若松駅

会津若松駅の1番/2番ホームの終端にカメラが据え付けられたこのサイトは、鉄道ファンの間では一定の知名度を誇っている (らしい)。「上りと下りが1時間に1本ずつ」という田舎ならではの本数の少なさはさて置き、出入りする電車をホームの端っこから延々と眺めていられるライブカメラは、確かに貴重と言える。
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さらに、画面右下端に「ボリューム・コントローラ」が設けられていることからもわかるように、なんとサウンド機能付きである。すばらしい。

このサウンド機能が新たに追加された時には、(おお、「ふくしまの窓から」もいよいよ盛り上がってきたなあ)なんて喜んでいたのだが、私の期待も虚しく、その頃からカメラの数がポツリポツリと減り始めた。

以前は「柳津町」や「会津若松市内 (NTT東日本の電波塔にカメラが設置されていた)」にも、ライブカメラがあったのだ。

会津坂下

ラストを飾るのは、私が生まれ育った「会津坂下町」である。ちなみに「あいづさかしたちょう」ではなく「あいづばんげまち」と読む。

小学1年のときだったか、地元の商店街の歳末大売り出しで点数券 (現代で言うと「ポイント」ね) を集めて親父と「殿さまキングス・ショー」を観に行ったとき、ボーカルの宮路オサム氏が
「ここは『さかした』じゃなくて『ばんげ』って読むんですねえ」
と、登場するなりあの独特の口調で地元の人間ではなかなか気づかない盲点を鋭く指摘し、会場が大いに盛りあがって「はい、ツカミはオッケー」な状態になったことを今でもはっきりと覚えている。ちなみに私が小学1年だったのは1974年なので、昭和の超スタンダード・ナンバー「なみだの操」がヒットしていた時期と重なる。まさに、殿さまキングス全盛期の話である。

そんな「殿さまキングス・ショー」を始めとした町の一大イベントは、私がこの町で暮らした昭和の時代は画像▼右手に写っている町民体育館で開催されていた。
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(この角度からはよくわからないが) 屋根の形が特徴的な、昭和30年代だか40年代だかに建てられた老朽化著しい建造物だが、未だにこうして現役である。

この映像の中で「動くモノ」と言うと、町民体育館ヨコの、私が住んでいた頃には影も形もなかった交差点を行き過ぎるクルマぐらいで、人の姿を確認できることはめったにない。そんな会津坂下町出身または在住者でなければ、いや、そうであってもひとつもおもしろくないライブ映像だが、私はときどき思い出すように見ていた。

私にとっては、映像の奥の方に見える四季折々に色彩が移り変わる山側の景色と、手前に見える寂れた町内のコントラストが、まさに故郷・会津坂下町の原風景なのだ。特に冬場は
(ああ坂下は猛吹雪だなあ・・・横浜(戸塚だけど)に住んでて良かった!)
などと、そのあまりの悪天候っぷりを見て、ノスタルジー交じりに「田舎を捨てる」という自分の選択が正しかったことを思って安堵するのである。

 

「ふくしまの窓から」はなぜ終わってしまうのか

なぜ「ふくしまの窓から」は終了してしまうのか、NTT東日本・福島支店のホームページには何も書かれていないのでわからない。私の勝手な解釈を書くと、「ブロードバンド普及のために構築した動画サイトだったが、一定の役割を終えたので閉鎖する」ってなところだろうか。

悲しいかな、いずれのライブカメラも設置された場所が田舎ゆえ、変化に乏しく何の面白味もないが、それでも動画は動画である。ほとんど何も動いてないけれど、再生には相応の通信環境を必要とする。

また、設置場所は各方面の協力を仰いでいたとは言え、これだけのカメラをすべてNTT東日本・福島支店でメンテナンスしていたのであれば、それなりにコストもかかっていたと思われる。その一方で、サイトにはバナーの類も貼られていないので、広告収入があったとは思えない。

ここで「福島県内のブロードバンド普及がどれほど進んだのか」はいちいち確認しないが、コストに見合うだけの効果がなくなったのかもしれない。「ふくしまの窓から」は、イチ地方のライブカメラ集としては質・量ともに群を抜いているとは思うが、今日び世の中には良質なライブカメラ映像がたくさんある。

例えば、YouTube上で公開されている「渋谷スクランブル交差点 ライブ映像」は、ずっと見ていても飽きない。
【LIVE CAMERA】渋谷スクランブル交差点 ライブ映像 Shibuya scramble crossing

これも端的に言えば「人間とクルマがただ動いているだけの映像」に過ぎないのだが、その圧倒的な数・種類によってもたらされる不規則性がさまざまな「都市の表情」を生み出す点において、福島県のどのライブ映像とも違っている。だから見ていて飽きないのだと思う。

もはや「ただ動画であれば良い」時代はとうの昔に終わっている。コンテンツとして何の面白味もない「ふくしまの窓から」は、早晩消えゆく運命だったのだろう。

 

ライブカメラはノスタルジーを誘うツールだ

高校1年の春休み・・・今から33年前の3月下旬にこんなことがあった。

高校は地元の進学校 (※会津限定) に行ったのだが、なんちゃって進学校ヨロシク、修学旅行は1年生の春休みに設定されていた *1。「京都・奈良」という至ってオーソドックスな行き先だったが、3月ということで会津と同様に日本海側の盆地である京都は、四泊五日の旅程中ずっと雪模様であった。

まあ雪で苦労したことがない人からすれば「雪の京都なんて風情があっていいじゃないの」ってな感じだろうが、このブログにも何度か書いたとおり、私はガキの頃から雪には散々苦労させられたので、せっかくの旅先でも雪を見せられて、心底イヤだった。(よりによってなんで3月なんだよ)とずっと思っていた。

そして帰ってきたら、はたして坂下も雪、しかもドカ雪だったのだ。修学旅行の思い出というと、龍安寺で外国人の中年夫婦にデタラメな英語で話しかけた *2 ことぐらいしか残っていないが、旅先でも帰ってきたときも雪にウンザリしたことだけは鮮明な記憶として残っている。

地球温暖化の影響なのか何なのかは知らないが、近頃は雪もずいぶん少なくなった。「会津坂下」の章に掲載した画像を見ればわかるとおり、「3月、しかも上旬に道路に雪が残っていない」なんてことは、私が暮らしていた30年前は考えられなかった。

そんな生まれ育った町の年ごとの変化を、もうライブ映像で確認することはできない。町民体育館も年代的にいつ取り壊されてもおかしくないと思うが、もしその姿が失われたとしても、もうライブ映像で確認することはできない。

「ふくしまの窓から」のクソおもしろくもないライブ映像は、私にとってはノスタルジーをかき立ててくれる大切なツールだったのだ。
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(▲文脈とは裏腹に、2017年3月8日の朝、会津坂下町は冬季デフォルトの雪模様である)

NTT東日本・福島支店の皆様には、YouTubeチャンネルでいいから (実行環境の制約がなくなるからむしろその方が良い)、どうか「ふくしまの窓から」のライブカメラ映像を公開して欲しい。有料チャンネルでもいい。100円/月ぐらいなら、支払ってもいい。そんなふうに思っている人間は全世界で私だけ、なんてことはないだろう・・・
ま、1,000人もいないとは思うけど。

 

*1:「高校2・3年は受験勉強で旅行どころじゃねえべした」という意味不明な理由づけに基づく

*2:「かけられた」のではない、「かけた」のだ