2019年2月17日、スカイラインハイブリッド (HV37) の初めての12カ月点検に行ってきた。
世間に“ゴシップネタ”を提供し続けるお騒がせメーカー=日産自動車の「まったく売れていない伝統車種」を大枚はたいて購入したイチ庶民として、思うところを記す。
メーカーのイメージとクルマへの愛
ゴーン“パクられ”ショックによるゴタゴタの影響は?
2018年10月以来、数カ月ぶりに訪れた毎度御用達の神奈川日産自動車(株)川崎元木店。
いちばんの興味は、「ゴーン“パクられ”ショックは販売の現場にどれだけ影響があるのか」ということであった。
約束の午前10時、の10分前に到着したとき、まだ来客用駐車スペースはガラガラだった。
が、その後続々と来るわ来るわ、現行セレナが2台、3代目セレナが2台、現行エクストレイルが2台、他にも現行ノート、同エルグランド、同デイズルークス、2代目エクストレイル、初代プリメーラ(!)、S15シルビア(!!)などなど・・・。新旧の日産車が引っ切りなしに、出たり入ったり。
その閑散っぷりを目で見て肌で感じて記事にしようなんて思っていたのだが、さにあらず。
(なんだ、けっこう賑わってんじゃん)
地に落ちたブランドイメージと相反する愛情
本当は、営業さんに「最近クルマ売れてますか、事件の影響はないですか」とチョクでインタビューしたかったのだが、彼はフロントバンパーの凹みも痛々しい3代目セレナでやって来た家族連れを「セレナ e-POWER」の試乗に連れ出した後、そのまま商談に入っていた。
(ふーん、何も気にしないヒトは気にしないもんなんだなあ)
その様子を見て、そう思った。
もし例の事件が発覚した後であれば、きっと私はスカイラインの購入をヤメていただろう。一時は、スカイラインを売却することも真剣に考えたほどだ *1。それだけカルロス・ゴーンにも日産の経営陣にも、心底ガッカリした、ということだ。
日産車を買うぐらいだからブランドにコダワリはまったくないが、やはりメーカーとしてのイメージは大事だと思うし、その意味において日産は、工場での検査不正だけに飽き足らず、トップがパクられた挙げ句にフランス企業に乗っ取られるとかそれに必死コイて抵抗してるとかのゴタゴタがメディアの格好の餌食になって、はや数カ月。
いい話は一向に聞こえてこず、そのイメージは地に落ちたまんまである。
まあ件の家族は、遠目で見ても「ボロい」とはっきりわかるクルマに平気で乗っていられるのだから、私とは何もかも感覚が違うのだろう。
その一方で、まだ新車の輝きを保っている現行セレナや同エクストレイルの点検に来ていた人達の中には、私と似たようなヒトがいたのかもしれない。
賑わっていたとは言っても来客のほとんどが点検か何かに来ていたワケだが、せっかくの休日にわざわざ点検に訪れるのは、クルマへの愛情が為せるワザでもある。メーカーのイメージが悪化したからと言って、いちど気に入って購入したクルマを手放すなんて、そう簡単にできることではない。
クルマと、それを作り上げた人達に罪はない。メディアで喧伝されているような(どこまでがホントでどこからがウソかわからないが)限られた制約の中で、開発陣は本当にいいクルマを作っていると思う。
責められるべきはカルロス・ゴーンと、その暴走を止められなかった経営陣なのである。
販売現場の踏ん張りと意味不明なサービス
ごく限られた売れスジで踏ん張る販売の現場
点検が終わるまで、待ち時間はたっぷりと1時間半以上あったのだが、今回写真に収めたのは自分の席の真横にあった「リーフ」のみで、他のクルマは1枚も撮らなかった。
毎度毎度、展示されているのは「セレナ」「ノート」「エクストレイル」だけで、何の変わりばえもしないだからだ。
逆に言えば、ほぼこの3車種だけで販売の現場はよくやっていると思う。
昨年 (2018年) 暮れから日産が必死こいて吹聴している「なんちゃらNo. 1」は、あれこれ条件をくっつけたり *2、そもそもトヨタはどこが違うのかよくわからないコンパクトカーを2つ用意したり、1つのミニバンを“ガワ”だけちゃちゃっと変えて3つに分けたりしているので、“アワレ”以外のナニモノでもない。
ただ曲がりなりにもある程度売れているのは、販売の現場の踏ん張りも理由のひとつではあるだろう。最近よく報じられている「日産のアメリカでの販売台数はインセンティブで持っている」みたいなことは、日本ではあまり耳にしないので。
「クレベリン」って何だよ(笑)
オンボロセレナの家族連れとの商談で頭がいっぱいだったであろう営業さんが、その前に大急ぎでサクッと話をしていったのは、「“クレベリン”をやってみませんか」であった。
「クレベリン」という固有名詞をCMで耳にしたことはあったが、それが何かはよく知らなかった。ものすごく簡単に言うと、昭和の人間には「正露丸」でおなじみの大幸薬品が開発した、「『クレベリン成分 (二酸化塩素)』による除菌技術」である。
それを日産ディーラーで車内に噴霧(?)する施工費込料金は「2,700円」。
たかが2,700円だが、されど2,700円である。“準”新作のERO動画であれば、モノによっては3本も買うことができる。当たりハズレが大きすぎる(しかも買ってからでないとそれが確かめられない!)VR動画も、またシカリ。
インフルエンザもインフルエンサーにもめっきり縁がない私にとっては、EROやVRの方がよほどカネを出す価値があるのだが、上述のとおり日産ディーラーに敬意を抱いているゆえ、ふたつ返事で無用なサービスを受け入れることにした。
さて、営業さんはオンボロ家族との商談にずっとかかりきりだったので、点検後の話は他のスタッフが担当してくれたのだが、「クレベリン」については何の説明もなかった。
どうやら「専用機器を使用して濃度を最適化したクレベリン成分 (二酸化塩素) を発生させ、洗浄が困難なシートや車室内をすみずみまで除菌」したらしいが、無論見た目が変わったわけではない。ニオイがあるわけでもない。「おおー!空気がクリーンになったー!」なんてことももちろんない。コスモクリーナーじゃあるまいし。
クルマなんて都市部 *3 ではムダの極致で、費用対効果だけを考えたらハナから所有しなければいいわけだが、日産謹製「クレベリン」もまた、私にとってはムダの極致である。
最近では週に均せば3時間(笑)も乗らない、しかもほぼ1人乗り専用のクルマじゃなくて、週に10時間は絶対に乗らざるを得ない、ノーマスクで咳やクシャミをしまくる昭和カタギの人間でアフレている東海道線と中央線の車両にでも施工してもらえば、クレベリンも有用かもしれないが。
ちなみに余談だが、上で引用したサイトに
Q. 小さなお子さま、妊婦、ペットが乗車しますが、施工しても大丈夫ですか?
A. 施工しても大丈夫です。ただし、二酸化炭素に関連するアレルギーをお持ちの方は施工を控えてください。
とある。
二酸化炭素にアレルギーがある人間って、いったいどうやって生きていけばいいのだろう。
“哀”のスカイライン
さて、点検で何が楽しみかというと、自分以外の誰かが動かしている愛車のエクステリアを眺めることである。そのとき、(ああ、やっぱカッコいいなあ)と思えなければ、クルマを所有する意味がない。
無論1千万でも2千万でもクルマにつぎ込むことができれば、もっといいクルマはいくらでもあるが、私にはこのクラスが限界であり、その中ではスカイラインがいちばんカッコいいと思う *4。
が、悲しいかな、ニッポンの大多数のみなさんにはこのカッコ良さが理解してもらえないようだ。
同様に古くからの伝統車種であるトヨタ・クラウンの販売台数が毎月6,000台を超えるのに対して、(フルモデルチェンジの時期が違うとは言え)スカイラインは百数十台と、相当お寒い状況である。
ここ数年の日産のテイタラクを見るまでもなく、「とりあえずトヨタにしとけば間違いない」という考え方はシゴク当然だと思うし、まさに「王冠」というネーミングがふさわしい初代から、稀代の名コピー「いつかはクラウン」の時代を経て、今日まで一貫してイメージを守り続けている *5 クラウンが、セダンというジャンルでは圧倒的な販売台数を上げているのも、ムベなるかなと思う。
▲初代クラウン(2014年4月11日・トヨタ博物館にて)
とにかくスカイラインは、迷走し過ぎた。まさに昭和から平成、さらに今のままでは次の時代も迷走し続けるであろう日産の“シンボル”が、スカイラインである。
それでも、年齢的にはドンピシャ(死語)であっても、どうもクラウンはピンと来ない。「低グレードのジャーマンスリー」に“逃げる”のもシャクに障る。
そういう日本にコンマ数パーセントだけ残ったアマノジャクが、スカイラインを買うのだろう。私もそのひとりだ。でもどんなにアマノジャクだからって、心の底では「スカイラインにして良かった」と思いたいはずだ。
自動車ファンからはソッポを向かれ自動車メディアおよびその関係者からは冷たくあしらわれ、いまやスカイラインは、ただ哀しみを身にまとっている。こちらも稀代の名コピーである「愛のスカイライン」は、現代ではすっかり「“哀”のスカイライン」である。
どうか日産には、スカイラインを選んだアマノジャクたちを、これ以上悲しませないで欲しい。ルノーとくっつくにしろ別れるにしろ、「我々の目利き力は確かであった」と、スカイライン・ユーザーが誇れるようなメーカーであって欲しい。
そう切に願う今日この頃である。